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#77 ページ35

「たーだいまぁ......って、なんやサム居ったんか」


部屋のドアを開けるなり鞄を投げる。と、治がスマホを睨んだままベッドに寝転がっていた。
俺の声にも反応せず、薄暗い中での画面にも目を細めず、その奥の何かに呑み込まれているように見える。


「おい視力落ちんで、なに見とるん......」


俺の有難あい忠告 ( そして高尚な好奇心 ) にしてようやく治はそこから意識を逸らし、それでも心底迷惑そうに「止めえや」と俺がスマホを覗き込むのを押し退けた。

そんな険しい顔されると尚更気になる。

無理に奪い取ろうと手を伸ばすと、いつもの調子とはまるでずれて、俺と同等かそれ以上の力で抵抗してきた。バレーのことで喧嘩したときみたいな反応。

......ほおほお、キレーなお姉さんのグラビアか?

なんて思って、俺が力を緩めたのに油断した治の、一瞬の隙をついて機器を奪った。


「おい!」
焦燥を露にする声と、それに追い付く腕が伸びてくる前に、俺はその画面を確認した。
さてどんな巨乳のお姉さんかなあ。それか角名のインスタか?

そんな軽い気持ちでスライドした時の、俺の硬直を。サムはどう捉えたのやろか。



「............は? これ、八重」


あまりの動揺に上ずった声は、治に胸ぐらを掴まれたことで掻き消された。


不意討ちと苦しさに一瞬息が詰まるが、すぐに取り繕って治を睨み返す。
しかしそれも、治の異常な怒りと凍てついた眼差しによって無いものとされた。使い古された暴言でさえ溢すのを躊躇ってしまう、怒気然り正義。

生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた奴、つまりこいつとの乱闘なんて怯えるに値しなかったのに。この治には、有無を言わせぬ怒りがあった。

認めたくは無いが確かにやむを得ない、俺の無神経な行動に。治は、ブチ切れていた。




「侑てめえ、余計な真似すんなや......ぶっ殺されたいんか、あぁ?」



荒ぎのない、静かな激情。先走る感情に、口が体が着いていけていないようだった。俺への怒気、ただそれしか見えていないようだった。


お前になんか殺されるか。

いつもならそう言っていたところだ。
が、治の目を見据えた俺は、今ならもしかしたら分からないかもしれない、と。ほんの一瞬、一瞬だ。思い淀んでしまった。

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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました! (2022年1月23日 23時) (レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです!気づいたら3時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです!!笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです! (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37  
作成日時:2018年5月6日 15時

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