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「ごめん、わたし口が滑ったっていうか、遊佐くん以外には、「八重」
掠れたような、くぐもったような、そんな声が遮った。
わたしは今紡ごうとしていた言葉に焦燥感を覚えながらも、自分の苗字には冷静に反応することができた。けども、その声には聞き覚えがある。今現在の会話の、中心にいた人物。
「八重」
__刹那、感情が全身を駆け巡った。
いやだ。
いやだいやだいやだ。
あまりに唐突な、忌むべき感情。
全くもって分からない。どうして急に嫌悪感が生まれたのか、分からない。いつだってわたしが拒絶するのには理由があって、今さら不満が爆発するなんてありえないのに。
ぐるぐると、目まぐるしく震える。
__どうして急に、どうしてなんやろ。
嫌悪と紙一重の疑問に、頭がくらくらする。
「八重」
それでも無視はできなかった。
唇を結び、ゆっくりとその方向へ顔を向ける。
嗚呼、やっぱり。
そこに立っていたのは、背の高いあの双子の片割れの。
「八重さん」って、呼ばないほう。
「......おう、宮」
少しばつの悪い表情の遊佐くんが、軽く手をあげた。
ミヤアツム。
将来有望なバレー選手で、背が高くて、とてもかっこいい同級生。
まなと仲が良くて、わたしのことが嫌いな、同級生。
『なんや、双子の可愛くない方か』
いつか吐かれた台詞。
そのときのわたしは、多少傷ついたものの、あまり重くは受け止めなかった。はずなのに。気づかないうちに、複雑に厄介に根が絡まっていたのか。ずっと、誰にもばれないように、つもっていたのか。
岡村やミヤオサムによって、ぎりぎりに繋ぎ止められていた紐。
靴を洗ってる時には、切れそうになってたのかもしれない。けど、遊佐くんがそれを留めてくれた。涙を流す前に、声を掛けてくれた。ずっと見ていた、と。そう言ってくれた。
なのに、今わたしは、ミヤアツムに何をしようとしているのか。
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__いや、わたしは何を、我慢しているのか?
失笑、悪態、傷ついたローファー。
それらは、ずっとわたしを苦しめてきたじゃないか。無慈悲に、無責任に。
分からへんわ。
わたしは何のために、自分を殺しているのか。分からない。意味が分からない。
嘘をついてるくせに良え子でいる意味が、分からない。
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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました! (2022年1月23日 23時) (レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです!気づいたら3時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです!!笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです! (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時:2018年5月6日 15時