#70 ページ28
・
「おい、ツム。どーいうことやねん」
部活も終わって、ういーって感じで支度をする流れだった。
けどそれを止められる。治が険しい顔でこっちに詰め寄ってきたからだ。いつもより数段低い声で、抑揚なく俺を呼び止める。
こいつが何を言いたいのかは分かっとった。
なんでお前は八重さんが好きなのに。
彼女の気持ちを弄ぶな。
八重まなのことも考えろ。......って、俺を咎めたがっとる。
生憎、それに応じる筋合いはない。
「どーいうことって、そーいうことやけど？」
「だから、それが何やねん言うとんねや」
「......お前にとっちゃ良えことやろ、八重Aと付き合える可能性増えたんやから」
心構えても結局相手にしてしまうのは、最早長い年月の不可抗力。
そして答えるしかないと思わされるほどの、治の激情。
静かに、一語一語区切って。感情の起伏も一切感じさせない怒りがそこにはあった。眉間の皺が深いわけでも、ごつい腕を組んでるわけでも、語尾を荒げるわけでもなく。
鋭く、秘めやかな温度を紡いで、心臓の如き。怒り怒り怒り。
治は、自分の好きな人を傷つける俺に、怒っていた。
俺が黙ってプリンを盗み食ったときとか。
こいつはこんな怒り方をした。
けどそれと決定的に違ったのは、怒りの理由が自分の不利益に繋がるからではなく、ただ純粋に他人を想って故のものだったことだ。
かえって冷静になった思考で、ぼんやりと考える。
治はもしかしたら、俺を危惧してなどいなかったのかもしれない。
俺がこんなやつだと知っているから、「待たない」と宣言したのかもしれない。
......いや、違う。
俺がどうとかまなちゃんがどうとか、そないなことは関係なくて。八重が可哀想やとか優しいとか、そんな疑似した想いでもなくて。
サムはただ純粋に、八重Aが好きやった。
だから、こんなまでに俺に怒った。
それを理解した、俺は言う。
「............俺には無理や､」
「なにが」
「俺は、八重を好きになって良えやつとちゃう」
「なんで」
「分からんか？ ＿＿＿＿俺だからや」
「......」
「もうお前知っとるみたいやから言うけど、俺、八重に告った」
「......んで、なんや」
「言わんでも分かるやろ」
「......あかんかったんか」
「何も言われとらん。逃げられた。泣きそうな顔しとった。そんで分かった」
「俺やない」
ああ。
今さらやけど、ほんま狡いでサム。
俺だって八重に、綺麗な恋したかった｡
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1224人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました！ (2022年1月23日 23時) (
レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです！気づいたら３時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです！！笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです！ (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しお | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時：2018年5月6日 15時
