#66 ページ24
「おい、ツム。何にしとんねん。早よせえや」
サムやった。ジャージのポケットに手え突っ込んで、眉を寄せて鼻に皺寄せて。見るからに不機嫌そうやった。たぶん俺を呼ぶのが面倒臭いのもあったんやろけど、他になんかあるなあとは察した。
ああ、こいつさっきの見とったんや。
それで心配してんねんな。俺に八重とられるんやないか、ってな。お前のほうが一歩先行っとる感じやったのに、俺がそれをいとも簡単に抜かしたったらな。気に入らんよな。
いっつも恋愛沙汰に関しては、付かず離れずの位置で傍観しとったくせに。俺が女子の愚痴言うたび「ほーほー」「へーへー」しか言わんかったお前が、そんなに必死なるって。なんか、気い抜ける。
そんなお前に、教えてやるわ。
大丈夫やで。そないに勘繰らんでも、大丈夫や。俺はもう、あかんかったんで。諦めました。
八重と幸せーな関係になるんは。
俺が良えやつになろうとするんは。
やめた。
まなちゃんはヒロイン、八重もヒロイン。俺はせいぜい悪役、良くて当て馬。
ええわ、これ以上足掻くのは。だって全然おもろないんやもん。
悪役を全うするほうがまだマシ。
「......おお、すまん」
「八重さんと何話しとった」
食い気味で、しかし冷静を装う口振り。ただ俺には分かる。サムは焦っている。涙袋を浮かべるとこ、顎よりも額を前に突き出してるとこも。変わっとらん、癖。俺とおーんなじ。
俺とおんなじやから、サムをむかつかせる方法も、知っとる。
「なーんにも?」
こうやって笑えば、ほら。サムは顔を険しくさせる。
あーおもろ。おもろい。
でも、それに相手しとるほど俺は余裕ない。
「サム、まなちゃんどこー?」
「......体育館。お前ら見て、入ってった」
「あーそうなん」
にこにこしとる俺を気味悪がってか、サムが険しい表情を歪めた。
「何考えとるん」って顔。実際俺も分かっとらん。今自分がどんな顔してんのか。まあ大方ゲッスい顔ってとこやろな。
「......インターハイ近いんやからな」
「なこと分かっとるわ、別に支障出したりはせんよ」
「お前は良くても八重妹は、......ちゃうやろ」
それ聞いて、サムは俺を理解してることに改めて気づいた。
............で、なに? 理解してるから、俺を咎められる? 無理やんな? だってお前は「ちゃんと」八重が好きなんやもんな?
俺も好きやで。だけど真っ当な好きを貫くことは、できひん。
「あいつが俺に告ったんが悪いんや」
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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました! (2022年1月23日 23時) (レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです!気づいたら3時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです!!笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです! (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時:2018年5月6日 15時