#62 ページ20
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「治、侑どこいった」
「知らん」
「外に居るんかなあ。治、呼んでこい」
なかなかロードワークから戻ってこない侑の所為で、面倒な仕事を押し付けられたものだ。大袈裟だろうか、いやいや、疲れている身としては立派な労働である。
北さんの名前を出されて渋々、体育館から校庭へ出た。途端にうんざりするような暑さが張り付く。タオルで拭った汗も、数秒でまた吹き出てきた。
あいつは何をしているんだ。
いっつも我先にと体育館へ戻ってくるくせに。
暑さのせいで割増の苛立ちが、ふつふつと額から腕から流れてくる。汗と混じってだらだら、拭っても拭っても止まらない。着替えたい。早く体育館の中に戻りたい。
目の端に一筋、ぽたり。
その鬱陶しさを腕で擦る。
なんでもない、ただの動作。目に入るのは不快、頬にべたべた流れるのも不快。だから拭いた。
たったそれだけ。
それだけなのに、その「ただの動作」のせいで、突然汗が止まった。
「............、は？」
自分でも呆れるくらいの、間抜けな声。
それが零れたのは、視界の隙間に 固まっている八重妹がいたから、＿＿いや、固まっている八重妹の、視線の先をたどってしまったからだった。
八重妹の華やかな横顔、が、崩れている。
数メートルの距離はあった。なのに、見たことない八重妹の横顔は、ぞっとするくらいに鮮明。唇は歪み、澄んだ目は小刻みに震え、鼻を伝う汗は光を吸い込んでいる。
「どうした」、いつもならそうして駆け寄っているところだ。彼女自身に傷は無かろうと、その横顔がそうさせてしまう。それくらいに狂的。なのに、
俺は駆け寄れなかった。
彼女の見つめる先を、一緒に捉えてしまった。
「＿＿＿＿、」
侑、やった。
侑、と、......。
侑が、細いのを掴んだ。
白くて、折れそうで、細いの。誰かの腕。腕。＿＿八重さんの、腕。
侑が何を言っていたのかは、聞こえなかった。この距離で、耳に届くはずもなかった。それは八重妹も同じ。同じ、はずなのだが、彼女には聞こえていたみたいだった。遠くとも、あの二人を取り巻く雰囲気とか、お互いの距離感とかで。
......俺だって、ああ。気づいた。
経験したことのない焦燥が巡る。
冷えたものが体内を蠢いて、ひゅんと喉を走って。
『待たんからな』
確かに言った。言ったけども。
お前が先を走るなんて、聞いとらん。あり得ない。
おい、ツム。
やっぱり、フライングはあかんて。
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しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました！ (2022年1月23日 23時) (
レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです！気づいたら３時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです！！笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです！ (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しお | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時：2018年5月6日 15時
