#46 ページ1
・
悪気は無かったとでもすれば、或いは言い訳になっただろうか。
「侑くんが好き」
忘れ物を取りにいくため、シューズを履き替えていたら、こうだった。放課後の静けさと相まった、靴箱の陰から漂う、普通じゃない男女の会話。本来なら、男のほうが自分の片割れだったとしても「日常茶飯事」と他人事で見るものだが、今回はそうはいかなかった。
遠くからでもわかる澄んだ声は、八重妹だ。
聞いてしまった、気づいてしまった、という罪悪感が渦巻いた。侑ではなく、八重妹に。それに加えて、侑自身は頷くのかという好奇心も芽生える。
しかし、いくら侑と同じ血が流れているとはいえ、こっちは幾分かのデリカシーは弁えている。咄嗟に、靴箱より高い位置にある自分の頭をかがめ、八重妹と侑が続ける会話に耳をすませた。無論、デリカシーと好奇心は別物である。
正直なところ、侑は断る気がした。
あいつは確かに、彼女を日替わり弁当的に扱っているところがある。そのせいで一部の女子の反感を買うこともある。
けどそれと同時に、侑は一途だ。
あのバレーに向ける、痛いくらいに無垢な目。その目を女子に向けるのだから、それは永遠と呼べる。そしてその永遠は、八重Aのもの。八重妹もそれは理解しているはずなのだが。
「冗談はあかんで」
「冗談ちゃうよ」
なのに八重妹は、侑が与えた僅かな猶予をふいにして。あの人当たりの良い、外面の笑みをぶち壊して。
俺は耳をふさぐしかなかった。
これ以上を聞くことは許されない。悪気は無いと言い訳して、その言い訳が認められたとして、以下が底辺、以上でせいぜい数センチメートル。
八重妹がそこから去って初めて、俺は頭を上げた。
「振ったん？」
目を丸くするほどに侑の返事は速かった。どうやら俺の存在に気づいていたらしい。特段驚くことも無く、口にはゲスい笑みの余韻を残して、眉間の皺を戻す。
「何や、＿＿＿＿返事はいらんよ、振られんのは分かっとるから。ごめんね、インターハイ前にこんな話。お互い、部活頑張ろうね」
「............」
「ほんま何なんやろな、女子って。俺には分からんわあ、」
冷たく言い放つ。
侑は色恋沙汰に対して、冷静だ。相手の言葉にどんな背景あろうと、その言葉がどんなに重かろうと、それが非であると判断すればそこまで。八重妹の告白は非であったということだ。
けども、本人は気づいているだろうか。
八重妹を否定する声に、困惑と迷いが含まれていることを。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1224人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しお(プロフ) - 大福丸◎さん» 遅れた所の話ではないほど返信が遅れてしまい申し訳ありません泣泣 本当に嬉しいです…今更になってしまいましたがコメントありがとうございました！ (2022年1月23日 23時) (
レス) id: 12c83b804f (このIDを非表示/違反報告)
大福丸◎(プロフ) - すごいよかったです！気づいたら３時間以上はこの小説読んでました笑 もー、本が出版されてたら買いたいレベルです！！笑 久しぶりにこんなにハマりました (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4787af4ccb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» いえいえ、こちらの配慮不足でもあるので......汗 こんな文章ばかりですが、良ければこれからもお読み頂けると嬉しいです！ (2018年8月1日 20時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 了解です。何でもかんでも質問してすみません。 (2018年8月1日 18時) (レス) id: 9d036889eb (このIDを非表示/違反報告)
しお - アオさん» 曖昧な部分でもあるので、難しい場合は読み流して頂けると嬉しいです (2018年7月30日 16時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しお | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時：2018年5月6日 15時
