#39 ページ39
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「岡村、先帰ってて」
たった今紡いだ声は、思いの外落ち着いていた。
喉はふるふると振動していて、舌は強張って張り付いているのに、声だけは平常やった。
首筋に滲んでいた汗が一気に乾いてく。
「ちょっと、用事思い出した」
棒読み。
大根役者もびっくりの、一本調子。
けど、今はそれを後悔する余裕なんて無かった。
「なんの用事、」
「ええから」 岡村の声を遮る。
「先、行ってや」
わたしの懇願は、あまりにも様子がおかしかったらしい。
冷静を装っても、察しのよい岡村は「どないしたん」と顔を険しくして駆け寄ってくる。
わたしは彼女の行く手を阻みたかったけど、それさえ叶わず、ただその場に立ち尽くしていた。
息を呑む音が聞こえる。
「......これ、あんたの?」
岡村の静かな言葉と その指に提げられた物が、わたしの心臓を握り潰す。
「、たぶん」
ごみ箱に放られていたのは、酷く傷つけられたローファーの残骸だった。
"たぶん"
完全に肯定することが出来なくて、仕方なしに溢した3文字。
情けなくなるほど、掠れて震えた。
他の子より一回り小さいそれは、間違いなくわたしのものやった。
けど、違う。わたしのものだって認めらない。
今朝まで確かにあったはずの新品の光沢が、濁って見えない。
この一週間雨は降っとらんのに、中敷きの色は変に濃くなっている。
大きな傷がつくようなこと、した記憶がない。
「......A、あんたもう宮くんと関わったらあかん」
岡村が蒼白な顔で、首を振った。
それで、気づいてしまった。
これは故意にやられたものやってこと。
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『八重さん、妹より暗いくせに調子乗りすぎ』
ギャラリーに混ざって壁沿いに立ったとき、何処からか聞こえた悪態。
『治くん可哀想、あんな根暗に付き合わされて』
わたしの言動や行動を、全て否定した悪態。
『まなは仕事頑張っとんのに』
聞こえなかったかのように振る舞うわたしを、一瞬にして貫いた、悪態。
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靴箱にふたり。岡村とわたし。
もう午後4時30分を回っている。
男子バレー部は、インターハイに向けて厳しい練習に励んでいる時刻。
このローファーをぼろぼろにした女子が、黄色い歓声をあげている時刻。
本当なら、岡村の冗談に笑っていた時刻。
せやのに、なんでわたしは。
なんでわたしは、こんなにも。
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「何でなん?」
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しお(プロフ) - 信者ですさん» ご意見有難うございます。読みにくさは私自身常々感じてきたことなので、己の文章や貴重なご意見に関して身の引き締まる思いです。しかし◯◯サイドという表現を敢えて避けた結果がこの構成なので、他の方法での改善を試みようと思います。ご意見有難うございました。 (2019年8月8日 18時) (レス) id: 9e83b126f2 (このIDを非表示/違反報告)
信者です - 誰のセリフ、とか、誰サイドか、とか書いたらもっと読みやすいと思います! (2019年8月7日 13時) (レス) id: ae560f4fe9 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - しおさん» なるほど!ありがとうございます! (2018年5月19日 0時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)
しお - 天音さん» 確認のお返事、わざわざありがとうございます。更新もできるだけ進めていきたいです......質問の件ですが、フォントではなくて文字間隔を空けてます。『div#desc,#u_result{ letter-spacing:1px }』をカスタムに入力すればできると思います (2018年5月16日 15時) (レス) id: ea11491d2e (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - もう一つ質問なのですが、この小説に使われている文字フォントがとても素敵で、私も使って見たいのですが、幾分占いツクール初心者なのでどうやって変えているのかわかりません。もしよろしければやり方を教えていただけないでしょうか?長くなって申し訳ありません。 (2018年5月16日 5時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時:2018年3月31日 18時