検索窓
今日:26 hit、昨日:39 hit、合計:827,310 hit

#30 ページ30




電車から降りた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
雨は少量になりつつも、未だアスファルトを濡らす。

八重さんは目覚めが悪いらしく、瞳を擦っていた。


「明日は学校休むんやろ?」


座席で静かに眠っていた八重さん。
熱が下がったとは言えども、頬には赤がさしており、具合もあまり良くないように見えた。


「んー......そやねえ......」


目を押さえながらの、とろんとした声が聞こえる。

八重さんが何に躊躇しているのかは分かりきっていた。


「妹なら、侑がどーにかするはずや。八重さんは休まんとあかんよ」


俺が釘をさすように言うと、八重さんは肩を跳ねさせた後 項垂れた。


「......ご迷惑を、お掛けします......」


もごもごと言葉を連ねる八重さんは、やっぱりさすがや。
なんかもう、尊敬の域。

俺はふいに、彼女を泣かせたい衝動に駆られた。

本当に一瞬の衝動だ。
けど、確かなものだった。

白い頬を濡らしたい。真っ直ぐな瞳を腫れさせたい。

__いや、俺はアブノーマルか。

自分でもそれには引いたので、誤魔化すように傘を開いた。
すぐに下から同じ音がする。


「送ってくわ」

「、ありがとう......」


どちらからともなく、歩き出した。



傘を打つ音はいつの間にか無くなっていた。

俺は確かめるため、影から手を出す。濡れなかった。
雨はようやくやんだようだ。

傘を閉じて、水をはらう。
ぱらぱらぱら。透明の滴が暗闇に煌めいた。

八重さんもそれに続いて、水をはらう。
ぱらぱらぱら。静かでしっとりとした音が鳴った。


「......八重さんといると、腹減ってくるなあ」

「えっ」

「良い意味でな」


ええ......と戸惑う八重さん。
途端、手に柔らかな温度が触れた。


「えっ、な、に!」


俺は、彼女の髪をがしがしと撫でていた。

慌てふためく八重さんを、目を丸くして見つめる。

なんや、俺。なにしとんのや。
行き場を無くした手が、ぷらんと空気に浮いている。

気付いたら、口走っていた。


「俺、嘘ついたわ」


え、と八重さんが声を漏らす。

辺りは妙に静まっていた。
それが、俺の暴走を煽る。

呼吸も忘れて、俺は溢していた。


「八重さんを保健室に連れていったの、俺やない」

#31→←#29



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (624 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1016人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

しお(プロフ) - 信者ですさん» ご意見有難うございます。読みにくさは私自身常々感じてきたことなので、己の文章や貴重なご意見に関して身の引き締まる思いです。しかし◯◯サイドという表現を敢えて避けた結果がこの構成なので、他の方法での改善を試みようと思います。ご意見有難うございました。 (2019年8月8日 18時) (レス) id: 9e83b126f2 (このIDを非表示/違反報告)
信者です - 誰のセリフ、とか、誰サイドか、とか書いたらもっと読みやすいと思います! (2019年8月7日 13時) (レス) id: ae560f4fe9 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - しおさん» なるほど!ありがとうございます! (2018年5月19日 0時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)
しお - 天音さん» 確認のお返事、わざわざありがとうございます。更新もできるだけ進めていきたいです......質問の件ですが、フォントではなくて文字間隔を空けてます。『div#desc,#u_result{ letter-spacing:1px }』をカスタムに入力すればできると思います (2018年5月16日 15時) (レス) id: ea11491d2e (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - もう一つ質問なのですが、この小説に使われている文字フォントがとても素敵で、私も使って見たいのですが、幾分占いツクール初心者なのでどうやって変えているのかわかりません。もしよろしければやり方を教えていただけないでしょうか?長くなって申し訳ありません。 (2018年5月16日 5時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37  
作成日時:2018年3月31日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。