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電車から降りた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
雨は少量になりつつも、未だアスファルトを濡らす。
八重さんは目覚めが悪いらしく、瞳を擦っていた。
「明日は学校休むんやろ?」
座席で静かに眠っていた八重さん。
熱が下がったとは言えども、頬には赤がさしており、具合もあまり良くないように見えた。
「んー......そやねえ......」
目を押さえながらの、とろんとした声が聞こえる。
八重さんが何に躊躇しているのかは分かりきっていた。
「妹なら、侑がどーにかするはずや。八重さんは休まんとあかんよ」
俺が釘をさすように言うと、八重さんは肩を跳ねさせた後 項垂れた。
「......ご迷惑を、お掛けします......」
もごもごと言葉を連ねる八重さんは、やっぱりさすがや。
なんかもう、尊敬の域。
俺はふいに、彼女を泣かせたい衝動に駆られた。
本当に一瞬の衝動だ。
けど、確かなものだった。
白い頬を濡らしたい。真っ直ぐな瞳を腫れさせたい。
__いや、俺はアブノーマルか。
自分でもそれには引いたので、誤魔化すように傘を開いた。
すぐに下から同じ音がする。
「送ってくわ」
「、ありがとう......」
どちらからともなく、歩き出した。
・
傘を打つ音はいつの間にか無くなっていた。
俺は確かめるため、影から手を出す。濡れなかった。
雨はようやくやんだようだ。
傘を閉じて、水をはらう。
ぱらぱらぱら。透明の滴が暗闇に煌めいた。
八重さんもそれに続いて、水をはらう。
ぱらぱらぱら。静かでしっとりとした音が鳴った。
「......八重さんといると、腹減ってくるなあ」
「えっ」
「良い意味でな」
ええ......と戸惑う八重さん。
途端、手に柔らかな温度が触れた。
「えっ、な、に!」
俺は、彼女の髪をがしがしと撫でていた。
慌てふためく八重さんを、目を丸くして見つめる。
なんや、俺。なにしとんのや。
行き場を無くした手が、ぷらんと空気に浮いている。
気付いたら、口走っていた。
「俺、嘘ついたわ」
え、と八重さんが声を漏らす。
辺りは妙に静まっていた。
それが、俺の暴走を煽る。
呼吸も忘れて、俺は溢していた。
「八重さんを保健室に連れていったの、俺やない」
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しお(プロフ) - 信者ですさん» ご意見有難うございます。読みにくさは私自身常々感じてきたことなので、己の文章や貴重なご意見に関して身の引き締まる思いです。しかし◯◯サイドという表現を敢えて避けた結果がこの構成なので、他の方法での改善を試みようと思います。ご意見有難うございました。 (2019年8月8日 18時) (レス) id: 9e83b126f2 (このIDを非表示/違反報告)
信者です - 誰のセリフ、とか、誰サイドか、とか書いたらもっと読みやすいと思います! (2019年8月7日 13時) (レス) id: ae560f4fe9 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - しおさん» なるほど!ありがとうございます! (2018年5月19日 0時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)
しお - 天音さん» 確認のお返事、わざわざありがとうございます。更新もできるだけ進めていきたいです......質問の件ですが、フォントではなくて文字間隔を空けてます。『div#desc,#u_result{ letter-spacing:1px }』をカスタムに入力すればできると思います (2018年5月16日 15時) (レス) id: ea11491d2e (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - もう一つ質問なのですが、この小説に使われている文字フォントがとても素敵で、私も使って見たいのですが、幾分占いツクール初心者なのでどうやって変えているのかわかりません。もしよろしければやり方を教えていただけないでしょうか?長くなって申し訳ありません。 (2018年5月16日 5時) (レス) id: 9a8890df5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しお | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=harushiomb37
作成日時:2018年3月31日 18時