昼想夜夢は何処までも ページ25
「彼ら…？」
唐突に発されたその三人称複数形に、私は分かりやすくハテナマークを浮かべた。日本に遠距離恋愛中の彼氏なんていなければ、留学中に取り立てて連絡を取っていた相手もいなかった。それは私が物臭な性格と言うところもあるが、単純にフリーターになって人間関係が疎遠になったことが一番の原因だろう。フリーター時代に仲が良かった友達なんて、決して一人も…。
そう思いかけて、ふと思考が止まった。…厳密に言えば、友達の枠組みから逸脱しているけれど。店長が指し示す彼らは、今この瞬間脳裏に浮かんだその存在と完全に重なって。
「QuizKnockの皆だよ。」
答え合わせをするように、彼はその名前を口にした。
決して存在を忘れていたわけではない。彼らの動画は全て見ていたし、日本メディアで目覚ましいほどの活躍をしていたことも知っている。そしてあの日伊沢さんに告げたように、相変わらず私は彼らのヲタクを続けている。
「会う約束どころか、連絡だって取っていないですよ。」
「ええ。上なんだから、挨拶してきなよ。」
彼は笑った。会うほどの仲じゃない、と言えば烏滸がましいが、私たちはもう二度と会うことがないと分かっていた。ただの客と店員の関係が、三年越しにまで続く訳がないじゃないか。
「彼ら、Aに会いたがってるよ。来店する度、元気かどうか尋ねられるもんだから困ったよ。」
俺にだって殆ど連絡して来ないし、と苦笑する彼を他所に、私は衝撃で動きが固まった。
…まさか、彼らが。驚きの次に来た感情は、やはり喜びである。きっとすぐに塗り替えられる記憶に位置すると思っていたはずの私が、三年という年月を超えて彼らの中に存在しているとは。
「それは、光栄なことですね。」
…ただ。あの日完結した物語をこじ開けて、続編を作るつもりは無かった。
あんなに順風満帆な中で三年もあれば、彼の運命は私でない誰かに変わっているはずである。しかし私は、一度運命だと通じ合った相手を、心の中で信じ続けていたかった。顔を合わせなければ、それを現実として心に残すことが出来る。
逆を言えば、真実を知るのが怖いと言うことで。…たったそれだけのことに、過ぎなかったのである。
「今日、六人で予約入っているよ。」
グラスに入ったワインを一度に飲み干し、私は再び彼と視線を合わせた。
「今日の主役に、プリンセスメアリーを送って下さい。」
一つ、言葉が響く。微笑を浮かべたまま、私は席を立った。
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ﾎｼｲｽﾞﾐ。(プロフ) - 初めまして、この作品を読ませていただきました。綺麗で儚い世界観に引き込まれっぱなしでした！夢のようで、どこかもどかしい展開に焦らされながら、オチの付け方に感動しました。最高の作品を見つけてしまいました。この作品を生み出してくださったことに感謝です。 (2021年8月8日 15時) (
レス) id: 4988fec2c7 (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - めのさん» 初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます！そんな嬉しいお言葉を頂けることが、何よりのモチベーションになっています（；；）本当にありがとうございます！長い時間軸での展開になると思いますが、良ければ短編集もよろしくお願い致します…！ (2020年12月28日 0時) (レス) id: 0ba93f8ed3 (このIDを非表示/違反報告)
めの - 完結ありがとうございます！これから短編集も始まるとのことで終わりが来ることが怖かったのですが、安心しています。これからも応援しています。 (2020年12月27日 19時) (レス) id: 38bfafd10d (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - おとなりのトロロさんさん» こんにちは、コメントありがとうございます！二度も素敵なお言葉を下さり、そして結末に満足して頂けたことが何より嬉しいです（；；）本当にありがとうございました。お時間が有れば、今後ともよろしくお願い致します…！ (2020年12月25日 21時) (レス) id: 0ba93f8ed3 (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - やまもとさん» 初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます！貴方様の言葉一つ一つが澄み渡っていて、コメントを読んでいて泣きそうになりました（；；）長い間、本当にありがとうございました…！ (2020年12月25日 21時) (レス) id: 0ba93f8ed3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：萌衣 | 作者ホームページ：
作成日時：2020年11月24日 8時
