【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

種が明けても夜は明けぬ ページ27

「テイストなど、何かご希望はございますか。」
「いいえ。Aさんにお任せするよ。」

完全にお任せと言われた際、普段ならば食べたものや好みの味を聞いて如何にか方向性を掴むものであるが、今回ばかりはそれをしなかった。長々とこの話をした以上、彼の意図は完全に伝わっている。

「かしこまりました。」

そう言って微笑むと、私は数あるボトルの中から一つのブランデーを取り出した。期待に満ちた彼の視線が、私の手元に集中する。期待されることは苦手なのに、自然と嫌な気持ちはしなかった。人一倍緊張する人物であるはずなのに、むしろ私の心は落ち着いていた。

最後に氷を入れてシェイカーを振り上げると、彼は小さく感嘆の声を上げた。遠くに座るカップルの笑い声に掻き消されるほどの音だったが、私の耳にはしっかりと届いていた。

「お待たせ致しました。」

グラスに注がれたのは、カシスソーダに似た半透明の赤色。暗い店内に映えるその色は、鮮やかで存在感を放っている。

「ジャックローズでございます。」
「ありがとう。」

モノトーンのコースターの上にそっとグラスを置くと、その色は更に引き立って見えた。まるで、暗闇に一輪の薔薇が堂々と咲いているようである。彼は真剣な表情をしてじっくりとその姿を見渡し、それからゆっくりとそのカクテルを口に運んだ。

未だ不完全な形をした月の光が、拭いたばかりのグラスへと控えめに射し込んでいる。

「うん、美味しい。甘酸っぱくて、上品な味だね。」

少しの静寂を経てグラスを置いた彼は、脳内の本棚から素敵な語彙を引っ張り出してくれた。その簡潔な言葉が、私にはとても嬉しかった。きっと彼の頭には、私たちファンには想像がつかないほど膨大な、知識の結晶が詰まっているのだろう。こんなに優秀な脳があれば、一流企業からの引く手は数多だったに違いない。それにも関わらず、こうして知識と言う新ジャンルで会社を立ち上げ、未開の地へ足を踏み入れた彼は最高の冒険者ではないだろうか。

「ありがとうございます。」
「ねえ、このカクテルには、どんなメッセージが込められてるの。」

月光が反射するカクテルを見つめながら、彼は興味津々にそう言った。そんな無邪気さと知性を共存させる姿に、私たちはすっかり魅了されてしまっている。

「ふふ。それを私の口から聞き出すのは、無粋でございますよ。」
「ええ、悪口だったらどうしよう。」

冗談めかしてそう言った彼は、満足そうな表情で笑っていた。

たった一つの大きな幸せ→←種を明かせば花が咲く

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す