【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

酸いも甘いも一色淡 ページ17

「カシスオレンジでございます。」

そう言いながら、私は昨日彼に褒められたコースターの上にグラスを置いた。輪切りのオレンジが飾られたそのグラスには、褐色に濁りながらも鮮やかさを残すカクテルが注がれている。どんな店でも人気のあるこのカクテルは、見た目の可愛さに加えて飲みやすく、特に若い女の子に人気のお酒と言えるだろう。

私も、大学生成りたての頃にはカシオレだとか甘いカクテルばかり飲んでいたっけ。今じゃワインやウイスキーばかりを好むようになってしまって、あの時のような可愛さはすっかり失ってしまったけれど。

「ありがとうございます、頂きます。」

ニコッという効果音が付きそうなほどの笑顔を浮かべた彼は、それから慎重にグラスを手に取った。日差しを受けて焼けた肌が、彼の活発さと健康さを物語っている。細い手指はすらっとしていて、一切何のアクセサリーも付けていないところがむしろ素敵に見えた。

「…わ、美味しい。」

カクテルが食道を通り、きちんと胃袋の中に収まるのを見届けたところで、彼は小さく一言を呟いた。一人だからか、昨日より落ち着きのあるトーンで発した声だが、それでも彼からの感想はしっかりと私の耳に届いている。

「こんなに美味しいカシオレ、初めて飲みました。」

ぶつ切りにされたタコをスキレットの上に置きながら、私は今のこの贅沢すぎる状況を身に染みて味わっていた。きっと、彼がカシオレを味わう度合いを遥かに超えるくらいに。

「ありがとうございます。」

本当はもっと砕けた日本語で、本人を前にしてペラペラと愛を語りたかった。けれど今彼が話しているのは、ただのバーテンダーとしての私である。QuizKnockや山本さんのファンである私では決してない。半分は私であって、もう半分は別人のような、そんな感じだろうか。もどかしい気持ちはあるが、この場に来る彼も、きっとQuizKnockの山本さんではなく一人のお客さんとして居たいに決まっているだろう。

「このカクテル、お好きなんですか。」

だから私は、普段の接客と変わらない態度で世間話を投げかけた。一人でこの店に来るお客さんは、お酒と会話の両方を楽しみたい人であることが多い。故にお客さんがどんな人であれ、私はこうして何気ない話題で様子を探るのである。

もっと会話をしたいだとか、長く店にいて欲しいだとか、そんなファンとしての私欲は全てお客様という言葉で隠してしまおう。…私は案外、ずる賢い人間なのかもしれないな。

愛はあっても他愛のない話を→←捉えた瞳は画面を隔てず

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す