【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

捉えた瞳は画面を隔てず ページ16

「ご来店ありがとうございます。こちら、本日のフードメニューです。」
「わ、ありがとうございます。」

言い慣れた定型文を口にしながらラミネートされたお品書きの紙を向けると、彼ははっきりと感謝の言葉を落としてそれを受け取った。こんなに簡素な一言にもかかわらず、私の口角は自然と緩んでしまう。昨日の何倍も距離が近くなった彼の何もかもに、尊い以外の感情が湧き出て来ないのだ。…本当、限界ヲタクにも程がある。

不意に視線を斜め下に落とすと、その紙を持つ手が力んでいるのが目に入った。昨日も来店してくれたとは言え、やはり大人びたこの店の雰囲気にまだ慣れていないのだろう。そのぎこちない所作すらも、すっかり店の一部と化している私には微笑ましく思えた。

「本日は、海老とタコのアヒージョがお勧めですよ。」

平然を装ってそう声を掛けると、彼はたちまち視線を上に上げた。水晶のように透き通った瞳の綺麗さに、思わず素っ頓狂な声が出てしまいそうになる。彼を目の前にして、平気でいられる抗体なんてきっと一生生成されることはないだろう。

「美味しそう…！じゃあ、それをお願いします。」
「かしこまりました。」

寿司好きで有名な彼のことだから、きっと魚介類を好むだろう。そんな軽率過ぎる考察はどうやら不正解ではなかったらしい。徒然なるままに仕入れたこの二つの食材であったが、タイミングの良さにこっそり感動した。

「えっと、それから…。」

言葉を続けながら、彼は再び視線を落として持っている紙を裏返した。きっと今彼が探している文字は、ここには見当たらないだろう。この紙の何処にも、ドリンクメニューなんてものは存在しないから。バーでそんなものが書かれている店なんて、飲み放題をやっているチェーン店でしか見たことがない。

「名前を言って頂ければどんなものでもお作り致しますが、昨日のように私に任せて頂いたり、甘いものなどと抽象的に注文されたりするお客様も多くいらっしゃいますよ。」

そう言いながら、私は居酒屋でも馴染みの高いピーチとカシスのリキュールを手に取って見せた。後ろに並べられたリキュールの瓶たちは、列を成すと豪勢なものに見えるけれど、実際にはそんな大層なものばかりではない。

「そうなんですね…！すみません、教えてもらってばかりで。」

恥ずかしそうに笑う彼を前にして、やはり尊い以外の言葉が出て来ない。

「じゃあ、カシオレで。」

…飲むものまで可愛いなんて、天使ですか。

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