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「…満開の桜も君たちの入学を祝っているようで……」
校長先生の言葉が体育館に響く。
体はきちんと前を向いて話を聞いているのを装っているけど、頭の中では別の事を考えている。
何度か淡い期待を抱いてアメの散歩で公園に行ってみたけど、結局あれから彼には会えずじまい。
「続いて新入生代表挨拶、立花A」
「はい」
入試でトップの成績だったらしい私は新入生代表の挨拶を読むことになってしまって。
初日から無駄に目立つことをしたくなかった私としては気分が重い。
震えそうになる足をなんとか動かしながら壇上に立つ。
練習した通りに挨拶を読み終えてほっとしながら降りようとした時、目の端に金色が映った気がした。
「緊張してたわりにはちゃんと出来てたよ」
「本当？よかった」
小学校、中学校と一緒だったりっちゃんには私が緊張していたこともお見通しだったみたい。
「同じクラスね。一年間よろしく」
「こっちこそ！ ねえねえ、担任の先生イケメンじゃない？」
りっちゃんが先生の方を見るようにつついてくるけど、視界に捉えた気のする金色を探すのに必死で。
「どうしたのA？キョロキョロしちゃって」
「ううん、ちょっとね」
おかしい、確かにあの髪型の人がいたと思ったんだけど。
「1年4組移動するぞ」
結局探し出せないまま先生の声で移動が始まってしまう。
気にしすぎて誰かと見間違えたのかな。
「A！早く！」
「あ、うん」
残念な気持ちを押し込めて同級生たちの後を追った。
全員がクラスに入ってきたはずなのに私の隣には誰も座ることはなくて。
入学式の日に休むかな？
病欠とかだったらちょっと可哀想かも。
「とりあえず出席とるぞ。1番相葉雅紀…おい、相葉？」
出席簿から顔を上げた先生が教室内を見渡しても返事をする人はいない。
「…欠席の連絡は来てねぇし、初日からサボりか。良い度胸だな」
その後も先生は怠そうに名前を呼んでいって、私の隣の人の番になった。
「次、松本潤。…松本？ こいつもか」
今年の一年はどうなってやがる、と先生がため息をつく。
「担任の二宮です。担当教科は生物」
教卓に肘をつきながら喋る二宮先生の顔はドラマとかに出てくる俳優さんに少し似てる。
うん、りっちゃんの言う通り確かに格好良いかもしれない。
「生物の点数はちゃんと取れよ？俺の教え方が悪いって言われるのは勘弁だからな」
教師にあるまじき口の悪さみたいだけど。
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作者名：紫苑
| 作成日時：2020年6月30日 23時
