6. ページ22
櫻井さんが誘ってきたんだから高い店に連れて行かれるんだろう、と身構えていたのだけれど。
「え？ここって…」
意外にも彼が立ち止まったのはラーメン屋の前。
「何？もしかしてラーメン嫌い？」
「いや……失礼を承知で言うと、もっと高級な店に無理やり連れて行かれるものだと思ってました」
「ホントに失礼だな。ラーメン好きなんだ、悪いかよ」
「お金持ちなのに？」
「馬鹿。金持ちなのは家で、俺が自由にできる金は限られてるんだよ」
覚えとけ、という言葉とともに軽く頭を小突かれて。
男の人の乱暴な仕草なんて苦手でしかないのに、その手はなぜか避けたいとは思わなかった。
並んでカウンターで食べたラーメンは櫻井さんが支払ってくれる素振りを見せたので、ありがたく奢ってもらうことにした。
「ごちそうさまでーす」
「おま…いや、まあなんか機嫌良さそうだからいいわ」
「え？」
機嫌いいのはそっちでしょ。
私に財布出す暇も与えずに支払ってくれたし、今なんて鼻歌歌ってるもの。
でもそれを口に出すとこの暖かい時間が終わってしまう気がして。
口をつぐんで、ただ櫻井さんの横顔をそっと見つめた。
「よし飯も食ったし帰るか。送ってくわ、家どこ？」
「送って…って、え？」
「俺車だから。酒飲んでなかったろ？」
普通に電車で帰るつもりだったんだけど、そこまで甘えてもいいもの？
「…どうした？何かまずいか？」
「え？あ、いや……」
戸惑っている私を見て櫻井さんはフッと微笑む。
「俺の都合なら気にすんな。ちょっとしたドライブみたいなもんだろ」
気遣ってくれているだけ…だとしても。
気にするな、と優しい言葉をかけてもらえるのは嬉しい。
「櫻井さ…」
「それに、お子様はもう家に帰る時間でしょ」
「は？」
あ、まずい。
よく友人からドスがきいてると言われる声が出てしまった。
ありがとうございますって言おうとしてたのに。
でも、だって櫻井さんが失礼なこと言うから。
またあの、人を小馬鹿にしたような顔をして笑ってるから。
……私、怒ってもいいよね？
「子供扱いはやめてください！」
「ああごめんごめん。いくつだっけ？」
「22歳だって言ってるじゃないですか！！」
あははと楽しそうに笑う櫻井さんに詰め寄ってもまた軽くあしらわれて。
そのままなし崩しに櫻井さんの車に乗せられた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2702人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とも(プロフ) - おはようぉございます。正に嬉しくて号泣です。お互いの気持ちが繋がった。素敵なお話をありがとうございました。 (2020年12月12日 7時) (
レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - 柚さん» コメントありがとうございます！今回の更新でその気になった箇所をきちんと回収できていると思うので…楽しんでいただけたら嬉しいです。 (2020年12月7日 23時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
柚(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています^ ^なんで息を呑んだのか気になりますねぇ(^-^)♪ (2020年11月24日 8時) (レス) id: c036a1a7fd (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - 橘花さん» 前のシリーズから！長く読んでくださってありがとうございます(*^^*)自信満々の翔さん格好良いですよね…あと二人も頑張ります！！ (2018年6月26日 11時) (レス) id: 00c99a5500 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - まいさん» 強気×強気、良いですよね。まだまだ書き足りない事もあるので続編も考えてはいます(^-^)残りの二人も頑張りますね！ (2018年6月26日 10時) (レス) id: 00c99a5500 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫苑
| 作成日時：2017年3月15日 20時
