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「急だったから気にはなってたの。元気そうで良かったわ。みんなは？元気？」
「あ、はい。3年になったんで受験だなんだでみんなグロッキーですけど」
「ふふ。頑張らなきゃね」
「はい…えっと、」
何を言いたいのかも決めないまま、勢いだけで来てしまったからこれ以上何を言っていいものか分からない。
ああもう、ここまで来たら言ってやる。
「なんでこんなに急にいなくなっちゃったんですか」
やけっぱちのように口火を切ると、先生は少し狼狽えて俺の目から視線を逸らした。
「…ごめんなさい。あの子のことが心配だったのよ」
先生の視線を追って、庭で遊んでいる女の子にぼんやりと目を向ける。
「あの子、」
「姪っ子なのだけれどちょっと姉夫婦が揉めていてね。あまり子供には見せたくなかったから私が実家で面倒を見ると宣言したの」
何のことはない。先生は先生の事情を優先させただけ。
でも俺には、俺らを捨ててあの子を取ったように聞こえてしまって。
あの子さえいなければ、なんてバカみたいなことを思ってしまった。
俺がこの想いを告げれば先生を繋ぎ止められらるんじゃないか。
後から考えてみればとても浅はかで自分勝手な感情。
だけど俺はその感情を捨てられなかった。
「みんなの様子が聞けて良かったわ」
「先生俺は、」
「でも、もう来ちゃダメよ」
勢いのままに口を開いた俺を止めたのは先生の言葉。
ぴしゃりと戸を閉めるような、この先の俺の言葉を拒否するような声に俺は黙らざるをえない。
凍りついた顔の俺を見て先生はふ、と表情を和らげる。
「来てくれてありがとう。松本君と万葉集の話をするの楽しかったわ」
立ち上がってふわりと髪を搔き上げる先生。
その表情と言葉に、これ以上俺に何かを言わせる気はないのだと気づく。
「…俺も、楽しかったです」
ぎこちなく笑ってそれだけ言うのがやっとだった。
ぼんやりとしたまま先生の家を出て電車に揺られる。
ラッシュ前のせいか電車にはあまり人が乗っていなくて、それをいいことに俺は窓の外を見ながら泣いていた。
「告る前にフラれるとか、だっせぇな俺」
よく姉ちゃんが言ってる『縁が無かった』ってやつだと思うしか無い。
「暫くは恋なんて出来そうに無いな」
まさかそれから10年以上経って、もう一度先生とあの子に会うなんて知る筈も無かった俺の話。
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紫苑(プロフ) - りえさん» リクエストありがとうございます。『ハラグロなふたり』の続きですね。鋭意創作中ですので今しばらくお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます。赤菊の君の人気ぶりにびっくりしてました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ゆっこさん» リクエストありがとうございます。潤くん視点のお話書かせていただきました！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - mihoさん» リクエストありがとうございます。Lapis lazuliの続きですね！承知しました。ただいま創作中ですのでしばしお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - るきさん» リクエストありがとうございます。『赤菊』の翔さんサイドを書かせていただきました！大野さんのお話はもうしばらくお待ちくださいね。 (2021年1月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2017年1月23日 20時
