2. ページ31
古文の時間が好きだ。
その時間だけは遮るもの無しに静かに先生の声が聞ける。
「じゃあ次、26ページから和訳を読んでもらおうかな？みんな予習してきたよね」
先生の言葉に慌てる奴、当然とばかりに正面を向いてる奴。
もちろん予習をしてあった俺は先生の方を見る。
こっち見ないかな、なんてほんの少し願っただけなのに。
目があって先生が微笑った。
「目が合っちゃったから松本くんにお願いしようかな」
「…はーい」
バクバクいってる心臓を悟られないように、面倒臭そうな返事をする。
古文も先生も嫌いじゃないよ。
でも悟られるぐらいなら嫌がってると思われた方がマシ。
面倒ごとには巻き込みたくないんだ。
恋に落ちたきっかけはそんなに大したことじゃない。
俺のクラスの担任になった先生と古典の本の話をしただけ。
昔から母親の本棚にあった源氏物語とか枕草子とか、ちょっと背伸びして伊勢物語の現代語訳なんかを読んでいた俺は珍しい存在だったみたいで。
意外だと笑いながらも先生は色々な話をしてくれた。
ページをめくるほっそりとした綺麗な指とか落ちてきた前髪を払う仕草とか、先生を形作る一つ一つに目を奪われるようになって。
オススメされた和歌の解釈が先生と一致しただけで、これ運命じゃね？って思っちゃったりとか。
好きなものを語る先生のキラキラした瞳に俺も映りたいって思っちゃったんだ。
高1高2と言えない恋をし続けて卒業の時にでも冗談交じりに告白してみるかと考えていたのに。
高3になる直前の春、先生の移動が決まってしまった。
新しい赴任先は先生のご実家から近いからもうこの街にもいないよ、と別の先生から聞かされた俺はどうしてもじっとしてられなくて。
「やっぱ来るべきじゃなかったよな…」
先生から借りっぱなしになっていた本を返すというのを口実に、年賀状の住所を頼りに先生の実家まで来てしまった。
あれ、もし先生以外の人がいたらなんて言い訳したら良いんだ？
その可能性を思いついて呼び鈴を押そうとした手が止まる。
いつもは考えすぎて行動出来なくなる癖にどうして今回だけは衝動に任せてきちゃったんだよ。
よく考えてから行動するべきだったと後悔しても遅い。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1119人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫苑(プロフ) - りえさん» リクエストありがとうございます。『ハラグロなふたり』の続きですね。鋭意創作中ですので今しばらくお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます。赤菊の君の人気ぶりにびっくりしてました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ゆっこさん» リクエストありがとうございます。潤くん視点のお話書かせていただきました！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - mihoさん» リクエストありがとうございます。Lapis lazuliの続きですね！承知しました。ただいま創作中ですのでしばしお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - るきさん» リクエストありがとうございます。『赤菊』の翔さんサイドを書かせていただきました！大野さんのお話はもうしばらくお待ちくださいね。 (2021年1月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫苑
| 作成日時：2017年1月23日 20時
