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「おれもたまーにあんだよね。絵を描いてっと戻れなくなること。でもそういう時はちゃーんと戻してくれた人がいたからね」
「戻してくれる人ですか？」
「そうそう。今はいねぇけど」
ふっと大野さんは一瞬だけ寂しそうな表情をした。
その顔は瞬きの間に元に戻ってしまったから深くは聞けなかったけど、この人にも誰か想う人がいるのだと思ったら酷く堪らない気持ちになる。
こうして色々アドバイスをしてくれるけど、私はこの人の事をまだ良く知らないんだ。
それを言ったらきっと、知らなくて良いよと言いそうだけど。
「だからさ、Aちゃんも大丈夫だって」
「そう…ですね」
私を気にしてくれる人なんて今は身近にいない。
唯一お互いを気にかけて、兄妹のようにしてきたカズさんは…
……やめておこう。
これ以上考えているとまた引きずられるかもしれないし。
「大野さんありがとうございました。少しだけ気分が楽になりました」
「ほんと？ならよかった」
ふにゃっと笑み崩れた大野さんにぎこちないながらも笑顔を返してアトリエを出た。
カズさんに対する感情は相変わらず複雑なまま。
今でも好きなことは間違いないし、求めてくれなかった彼に対して悲しみもある。
でもやっぱり好きだから、の堂々巡り。
同じところをぐるぐると歩き続けてやっとたどり着いたのは、この感情と決別する決意。
この澱のように溜まった感情は、きっとサロメを演じるのに必要なものだから。
今はこれを抱えてサロメになる。
ただ、終わったらもう一度言おう。
あんな告げ方じゃなくてもっと正々堂々と。
諦められるかは別だけど、このどうしようもない自分を変えられる気がするから。
一つだけ懸念があるとしたら、私が戻ってこられるかどうか。
もしサロメのままカズさんに会ってしまったら何をしてしまうか分からない恐怖はある。
それでも私は演じることを止められないし、止める気もない。
カズさんに必要とされないなら、と吐き出したあの言葉は真実私の本心だった。
その一方で女優としての私を必要としてくれる人がいるならそれに応えたいというのも私の想い。
私が戻るスイッチはきっとカーテンコールの拍手。
その拍手がもらえるかどうかは演者の私達次第。
「うん、ちょっとドキドキしてきたかも」
舞台の初日は明日に迫っていた。
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紫苑(プロフ) - yukidarumakunさん» あとがきにも追記しましたが、この二人のその後を短編で書き始めました。ぜひ覗いてみてくださいね。 (2020年6月7日 16時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
yukidarumakun(プロフ) - ものすごく楽しみです！またこの2人に会えるのを楽しみに日々の生活頑張ります。こんな時期ですので御無理のないよう創作して下さいね。 (2020年6月6日 19時) (レス) id: b586aa50e6 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - yukidarumakunさん» 労いのお言葉ありがとうございます。この後の二人については少し考えていることがあるので楽しみに待っていてください！続きを書いた時にはまたこちらでお知らせしますね。 (2020年6月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
yukidarumakun(プロフ) - 完結お疲れ様でした。この後の2人も見たいですね。また、いつか続編読ませて頂ける日を楽しみたいしています。 (2020年5月31日 19時) (レス) id: b586aa50e6 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - めぐぽん(*´･∀･)さん» コメントありがとうございます。楽しみと言って頂けて嬉しいです。更新頑張りますね！ (2020年5月26日 23時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2016年12月14日 22時
