五十九、震える手 ページ14
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公園に着くと、既に智がいた。
それどころか望の姿もあって、二人でボールで遊んでいた。
それをベンチで寝ているクロを撫でながら眺めていると、望が気付いてこっちに来る。
「やーっときた。ほら、やるで?」
「いたっ…」
望に掴まれた場所にズキンと痛みが走り、思わず零れる声。
「え…ごめん。そんな強く引っ張ったつもりやなかったんやけど…」
「んーん、ごめん、大丈夫。行こ。」
なんでもないように笑って、望のあとに続こうと歩きだした。
けれど、再び掴まれた腕。
「A。腕、見せて?」
「え…」
今度は掴んだのは智だ。
智は私の服の袖を肘の辺りまで一気に捲り上げる。
「な…んなん…これ」
痣で真っ青になった腕を見て、智が目を見開く。
望も私の腕を見たまま、動かない。
急いで袖を元に戻して智の手から離れる。
「転んだだけ。」
わかってる。
こんな嘘、きっともう通じないってこと。
二人はまだ、動かない。
「…ごめん、帰るね。」
_ああ、もう全部、壊れてしまう。
幸せがどこかに行ってしまう。
二人を置いて、早足で歩きだす。
「A、待って、行かへんで。」
智の声が私を呼び止める。
止まっちゃダメなのに、止まってしまう。
「なんも聞かへんから。言いたくないならそれでええから。やから、帰ったらあかん。」
手に広がる智の手の温もり。
「俺んとこおいで。」
少しだけ強く握られた手が熱い。
繋がれた智の手は、震えていた。
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いつき(プロフ) - サイド読んで胸がギュッとしました (2020年6月11日 16時) (レス) id: 8b7262866a (このIDを非表示/違反報告)
つづり(プロフ) - しらたまさん» ありがとうございます。ゆっくりにはなってしまいますが、面白いと思っていただけるよう頑張りますね。 (2019年2月17日 11時) (レス) id: 063d02935e (このIDを非表示/違反報告)
しらたま(プロフ) - これからの展開がとっても気になります、、 (2019年2月17日 0時) (レス) id: 04ec2ee818 (このIDを非表示/違反報告)
つづり(プロフ) - いつきさん» コメントありがとうございます。そんな風に言って頂けて嬉しいです。このお話は初めて書いたものですし、自分自身大事に思っているので、しばらく更新していなかったのですが、最後まで書くつもりでいます。近いうちに更新するので、良かったらお付き合い下さい。 (2018年11月20日 9時) (レス) id: 2b8a9cbc91 (このIDを非表示/違反報告)
いつき(プロフ) - すごい心に刺さるお話でもう少し早く出会っていたら完結まで見れたのかなと悲しく思っています。素敵なお話で続きが気になります。気が向いて書いてくれるのを楽しみにしてます。 (2018年11月20日 3時) (レス) id: 9589088492 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つづり | 作成日時:2018年9月9日 23時