五十六、雨音の中で ページ11
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「ありがとう、送ってくれて。」
「ん。」
結局何も話すことができずに歩いて、気づけばもう家の前。
けれど、なかなかどう言って別れればいいのかわからずに、また黙って俯いてしまう。
そうしていると、智の手が再び私の手に優しく触れた。
掌を上にして智が私の手を見つめている。
「痛かったやろ。」
「…すぐ治るから、平気。」
「そんなに我慢せんでもええんやで？」
「大丈夫だから。本当だよ。」
「なあ、俺にできることは、あらへんの？」
「…。」
智がもう、何かを感じとっているのはわかっていた。
けれど、優しい彼はそれをずっと無理に聞かなかった。
それもわかっていて、何も言わずにいたんだ。
「智、私何も辛いことなんてないよ？」
「…」
「昨日はね、たまたまお父さん酔ってただけだから。だから心配しないで？」
「…そっか。」
智は、下を向いたまま哀しそうに笑う。
そんな顔を見たいわけじゃないのに、そんな顔をさせているのは、自分だ。
けど、言ってしまえば智は、きっともっと悲しい顔をする。
＿ねえ、智。笑ってよ＿
「智、なら一つだけ、お願い。」
智がやっと私の目をみる。
私はにっと笑ってみせて、智のほっぺを軽くつねる。
「またどこか連れてってね。」
そう言うと、智の腕に抱き寄せられる。
いつもより少し強い力が、全部智の心を教えてくれるようで。
「…どこ行きたい？」
「いっぱいあって選べない。」
「欲張りさんやなあ。」
抱きしめたまま聞こえる声は、耳をすり抜けて心にそのまま届くようだ。
智の低く優しい声が私の心臓を跳ねさせる。
「智、ありがとう。」
「…ん。」
傘に響き渡る雨の音は、智との距離をいつもより近く感じさせた。
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いつき(プロフ) - サイド読んで胸がギュッとしました (2020年6月11日 16時) (
レス) id: 8b7262866a (このIDを非表示/違反報告)
つづり(プロフ) - しらたまさん» ありがとうございます。ゆっくりにはなってしまいますが、面白いと思っていただけるよう頑張りますね。 (2019年2月17日 11時) (レス) id: 063d02935e (このIDを非表示/違反報告)
しらたま(プロフ) - これからの展開がとっても気になります、、 (2019年2月17日 0時) (レス) id: 04ec2ee818 (このIDを非表示/違反報告)
つづり(プロフ) - いつきさん» コメントありがとうございます。そんな風に言って頂けて嬉しいです。このお話は初めて書いたものですし、自分自身大事に思っているので、しばらく更新していなかったのですが、最後まで書くつもりでいます。近いうちに更新するので、良かったらお付き合い下さい。 (2018年11月20日 9時) (レス) id: 2b8a9cbc91 (このIDを非表示/違反報告)
いつき(プロフ) - すごい心に刺さるお話でもう少し早く出会っていたら完結まで見れたのかなと悲しく思っています。素敵なお話で続きが気になります。気が向いて書いてくれるのを楽しみにしてます。 (2018年11月20日 3時) (レス) id: 9589088492 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：つづり | 作成日時：2018年9月9日 23時
