三十六、揺れる ページ37
.
家には誰もいなかった。
部屋に着き、今日一日を頭の中で思い返す。
幸せすぎて、夢のようだ。
ふわふわ、ふわふわ
智のことばかりが頭に浮かぶ。
智の声、仕草、表情、温もり
一つ一つ思い出しては頬が火照る。
夢心地のままぼーっとしていると、突然携帯が鳴った。
見ると智からの着信だった。
慌てて座り直して通話ボタンを押し、おそるおそる携帯電話を耳に当てる。
「はい･･･」
「A？ちゃんと家ついた？」
「うん。大丈夫。」
さっきまで一緒にいたのに、電話の声は少し違う人の声みたいだった。
さっきよりももっと近くで話してる気がして、耳がくすぐったい。
「よかった。疲れたやろ？ちゃんとお風呂であったまってゆっくり寝るんやで？」
「うん。わかった。」
「夜更かししたらあかんよ？」
「ふふ･･･はい。早く寝ます。」
「おん。ええ子や。」
「智も夜更かししちゃダメだよ？」
「ふはっ。はい、わかりました。」
「ふふっ･･･」
「･･･A」
「･･･ん？」
「･･･や、なんでもないわ。そろそろ切るな。」
「･･･うん。おやすみ智。」
「おやすみ、A。」
電話が切れると、タイミングよくまた携帯が鳴った。
今度はメッセージが届いていた。
差出人は望だった。
望〈今何してたん？
―そういえば週末に連絡するって言っていたな。
返事返せって念を押されたっけ。
私〈部屋でぼーっとしてた
望〈俺のこと考えてたやろ
私〈全く考えてなかった
望〈照れんでええよ
私〈望ってアホだよね？
望〈それも愛情表現やろ？
私〈望に話が通じない
望〈冗談はここまでにして、明日暇？
私〈暇だけど
望〈1時に迎えに行くから
突然の誘いに戸惑う。
週末に人と予定なんて今までなかった。
それが今日は智と、明日は望と出かけるなんて。
最近変化がありすぎて、頭が追いついていかない。
正直、少し怖かった。
得てしまったら、失うことを考えてしまう。
けれどその反面欲張りにもなってしまう。
ずっと続いてほしい。
続くはずない。
その狭間で行ったり来たりを繰り返す。
望〈忘れんなよ
望からのメッセージを確認しベッドに入る。
目をつぶれば、今日の出来事が瞼の裏に浮かぶ。
ああ、お風呂入らないと、そんなことを思いながらもそのまま夢の中へ吸い込まれていった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
つづり(プロフ) - Moco.さん» コメントありがとうございます。初めていただいたコメントということもあり、とても嬉しかったです。ご期待に添える展開になるかはわかりませんが、精一杯頑張ります。元気をいただきました。ありがとうございます！ (2018年6月7日 1時) (
レス) id: 2b8a9cbc91 (このIDを非表示/違反報告)
Moco.(プロフ) - お話の世界に引き込まれて30頁一気に読んでしまいました。今後の展開がとても楽しみです！応援しています！ (2018年6月6日 11時) (レス) id: a529d7a9bc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：つづり | 作成日時：2018年3月21日 3時
