Youtuber 短編集

花/jiro ページ12

「お散歩したい」と言うと、

「いいね 丁度今日良い天気だしね」

と乗り気になってくれた。


てくてくと歩き始めて10分程経っただろうか。

池の周りのあぜ道を歩いていると、期待していたものを見つける。


立ち止まってその前にしゃがみこむ。

「おっと」


私が何故立ち止まったのか気になるようで、隣に同じようにしゃがみこむ。


「かわいいね」

「なにが?」

目の前にあるものに気づいてない鈍感さに呆れつつ、これ、と指差す。

「あぁ、花ね」

「なにその興味なさそうな言い方」

「いや、あるよあるある」



しゃがみこんで数十秒経っただろうか。

「すごいよなぁ」

「ね。この前まで雪降ってたのに」

「いや、違うよ」


予想してなかった返答に無意識に顔を向けていた。



「同じ所歩いて、同じ景色見てるはずなのに、俺全然気づかなかった。」



あぁ。そういうことか。

「偶然だよ」

「ううん、違う」

「え?」

「俺だったら見つけてても立ち止まらなかったと思うから。ほんとすごいなぁと思うよ」

「そう...かな」

「...今までだってそうだったんだよ
いちいち言わなかっただけで。
Aは俺が気づかないところに気付く」


まさかそんなことを褒められるなんて。








「...だから好きなんだろうな」



呟くように言う。




「...なにが?」



すると、

......はぁ?

とまぬけな声をあげた。




「まさか、気付いてないとか?」


意味が分からなかった。


「何に?」

質問に質問で返してしまった。



「とっくの前に気付いてると思い込んでた」

「だから、何に」



はぁ、と一息吐いて。
あぁぁぁと言って。

うん。と一人で頷いて。







「A、好きです。」






一瞬、時が止まったように感じた。


ある程度、状況が飲み込めると

心拍数があり得ないほど上昇し、顔が真っ赤になる。



「あーもう。ほんとに、なんで花には気付くのに俺の気持ちには気付かないんだよ...」


顔を見られたくなくて、ちらっと彼を見ると彼も少し赤くて。


「だって...それはっ...」


「良いよ。結果伝えられたから。」



俺、鈍感だからさぁ、反応見せて

と、顔を覗き込まれる。



「......真っ赤じゃん。」

そういう彼の顔はすっかり元通りになっていて。



ずるいよ。

という言葉は口に出さずにしまっておいた。



「その反応は、自惚れても良いかな。」





彼は小さな花には目もくれずに私に口づけた。

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