エリック 失ったのは退屈な未来 ページ6
「貴方もよくやりますねえ」
呆れたような、馬鹿にしたような、そんなカンに触る声で彼が言う。
確信犯なくせに、よく言うよ。
返事はせずに黙ったままでいると、私がなにか言いたげな顔をしていたのだろう、彼はヒョイと片眉をつり上げた。
言いたいことがあるならちゃんと言葉にしてどうぞ。
それとも、口が聞けないんですか?
−−−そんな副音声が聞こえてくるようだ。
いつもそうだ。
こちらを煽るような態度をとる。
意味深な顔で笑って、何を考えているのか全くわからない。
言葉遊びを楽しんでいるようで、それでいて肝心なところには触れさせてくれない。
「貴方が一番白いんですから。抜かれちゃあ困るんですよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
思わず舌打ちしたくなるのを、ぐっと堪える。
これっぽっちも思っていないくせに。
彼は妖狐だ。
直接聞いたわけではない。
ただ、わかるのだ。
狼と人が日夜攻防を繰り広げているのを、この男だけは飄々と眺めている。
自分に向けられる視線はいなして、こんなところまで生き残っている。
「しかしまあ、貴方は真っ白な私と違って疑われているのに、よくここまで生き残っておられますね」
「マア、隠れ蓑にされるのは慣れてるんで」
ニイ、と彼が笑うのがわかった。
普段は胡散臭い瞳が、今は別の色を宿しているように見える。
キラリと光った眼光は、あ、と思っているうちに随分と近いところにあった。
「私は嬉しいですよ。毎晩変わらず、貴方に会えて。完全な村ではないと知っていながらも私を守りに来てくれる、素直で馬鹿な貴方に」
つう、と頬を撫でられる。
この男のこんな行動には慣れたはずなのに、未だに高鳴り続ける心臓が憎い。
「……うるさいですよ」
そんな陳腐な言葉しか吐けないのは、結局のところ、貴方に惚れているからで。
その気持ちすら、彼にはきっとお見通しなのだ。
妖狐エリック×罠師
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作者名:sarry | 作成日時:2020年4月22日 16時