1話 ページ2
地元、そう呼んでいいのかわからないくらい少ししか住んでいなかったけれど、私が暮らしていた日本海に面する小さな町も冬になると沢山の雪が降った。朝起きて、いつもより寒く感じる床へ靴下を履いていない足を下ろす。寒いから、2、3歩ちょちょこと動いて素早くストーブの電源をつけ、前にしゃがみこむ。こうしてじっとしているとガスの匂いとチチチっという小さな音がして、熱風が吹き出し、冷たい床ですっかり冷え冷えになった足が暖かくなるのだ。暫くそのまま暖かさを堪能したら学校へ着ていく服をタンスから出してストーブの前に置く。近すぎると焦げちゃうから、程々に離して。そこまで支度をしたらパジャマのままそっと部屋を出て、廊下にかけてある上着を着る。台所の近くを通るともうお父さんもおばあちゃんもおじいちゃんも起きて仕込みを始めている音が聞こえてくる。ガラガラと大きな音がする引き戸を開けて、玄関に寝ている大きな秋田犬を見れば、準備万端です、とでも言いたげにリードを咥えて待っていたものだ。
リードを私が受け取ると尻尾を振りながらワクワクした様子で私にまとわりついてくる。
「もう、はしゃぎすぎだよ。今リードつけるから、少し待って。」
やっとのことでリードをつけて外へ出れば、スゥっと冷たい、雪の匂いがした。私にとってはこの匂いが地元を思い出す記憶だった。
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作者名:マイクロメーター | 作成日時:2017年3月4日 15時