龍が如く 夢、語る者

小説リクエスト。　≪詩音さん≫＊維新　：永倉夢 ページ32

5分ばかり走っていたら鶴楼の近くに来た。
東のほうの空から薄くだが、明るくなっているのが見える。

もう夜明けか…

『…寒いな。』

かじかむ手を擦り、吐息で温めても指先から冷えは戻ってくる。


…鶴楼についた。
有様は思ったよりひどくはなかったが、
大きく鶴楼と書かれた色鮮やかな看板はもう、炭のように真っ黒になっていた。


「A……？」

鶴楼に入ろうとした瞬間に誰かに呼ばれた。
暗くて、誰が私の名を呼んだのかを認識できない。


『誰！？』

永倉「俺や…！A！」

『永倉…様？』


鶴楼の近くにあったちょうちんを借り、光を灯す。
照らしてみるとやっぱり永倉様だった。


『なんで…こんなところに…？』

永倉「そ、それはこっちの言うことや…！」

『あの…鶴楼にもしかしたら男がいるんじゃないかと…』

永倉「…おんなじ事思うとった」


偶然にも鶴楼前で会い、偶然目的が一緒だった永倉様と中に入ることになった。
時間帯も同じだなんて本当に偶然だな。


ちょうちんは俺が持つ、と永倉様に言われて引き渡す。

…どうやら永倉様が先を歩いてくれるようだ。


もしかしたら、いつしか客から聞いたような気がする「れでえふぁあすと」というやつではないだろうか。

あぁ、でもそれだと私が先に行かなければならないから違うのか…？
ううん…難しいな。


永倉「斎藤…かわからんが、そいつとはどこで別れたんや？」

『裏口でございます。それ以降は見てすらもいなくて…。』

永倉「ならどこにいるかも検討つかへんな…。」


…あの男はどこに…。
もしかしたら、もういないのではないか。


永倉「片っ端から当たってくしかないやろ」

『…そうだな。』

永倉「！？」


し、しまった…！
つい気が緩んで地が出てしまった…！
私としたことが…！！


『も、申し訳ございません…！』

永倉「…！」


永倉様は目を見開いたまま静止し、すぐに口角を上げた。

永倉「言葉、崩したままでかまへんで。」

『！』


驚いた。崩したままで構わないだと…？
ただでさえ、この男らしい地は人から嫌がられるというのに

「くずしたままでかまへん」
どこでこの地が身についてしまったのかはわからない。
ただその一言だけで訳も分からず、救われた気がした。


永倉「ほな…行くで？」

『は、はい』

永倉「…崩したままでええ言うたやろ？」

『あっ…すまない』


凄く変な感じだ。
男に地をさらすなんて初めてだからか…

珍しい男もいたものだな…。

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