第149話 ページ10
男前な薬研の笑みに安心した僕は、再度お礼を言ってから保健室を後にした。
すると流れるような仕草で三日月に抱え上げられ、僕も自然と体を任せながらも不貞腐れたように唇を尖らせる。
慣れたとはいえ、不服は不服だ。
「あのさぁ…別に足は怪我してないんだから歩けるってば」
「そうだなぁ。だがしかし、お前は捕まえておかぬとすぐに危険を冒すからな。大人しく運ばれておけ」
「わかっていると思うけど、今日はもうすべての業務終了だからね」
「わ…わかってる、よ…」
確かに足も少し切れたけど、歩けないほどじゃないのに…と思っていたら、想像と少しずれた回答で目を丸くする。
僕のこと幼児か何かだと思ってるのかな？別に電車見たさに手を振り解いて線路内に突っ込むような真似はしてないでしょ。たぶん。
けれどこれ何言っても無駄なんだろうな…ともはや諦め、ニヒルに笑った長義の言葉にも頷く。
…本当は信濃の手入れをしにいこうとしていたなんて言えない…結局あのあと、解放するだけして保健室に連行されちゃったから、信濃の傷はまだ治せていない。
だからこれから行こうと思ってたけど…そんなこと言ったらまたアイアンクロ―キメられそうだし、大人しくやめておこう。
「ところで…結局、信濃藤四郎から出てきたあれはなんだったんだ？随分神格の高い神に見えたが…」
「あー…あれねぇ…なんだろうねぇ」
三日月に抱えられたまま、隣の長義から問われた疑問に曖昧な返事をする。
それがあまりにもわざとらしすぎたのか、長義はぎゅっと眉間にしわを寄せて、低い声で迫り寄った。
「おい…何か知っているんだろう。なぜ隠す」
「いやぁ、だってあれ…うぅん…まだ確定してないから話せない、かな」
「ここの初代の行方や、二代目の秘密について散々憶測を話していたくせに？」
「それはさぁ、椿さんのお墨付きだったからいいんだよ。
でもこれはさすがに…暴いちゃいけないことのような気が、する…から、無理です！」
そう断言して、ぷいっと大げさに顔をそらす。
不満そうな長義が「はぁ〜？」と悪態をついているが、そんな僕らを見て三日月が朗らかに笑った。
「はっはっは。確かに、信濃から
そう言って僕を抱えていない方の手でするりと頬のガーゼを撫でた三日月に、安堵すると同時に少し怖くなる。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
