第146話 ページ7
「前から思っていたが…あんた、いくら半分付喪神だからって、ちと危機感が薄すぎるんじゃねぇのか？同田貫の方がまだ慎重だぞ」
「えっ…同田貫より…？」
「うむ、もっと言ってやってくれ」
二の腕から左手にまで続く包帯を巻き終えた薬研が、ピンセットでつまんだ綿を消毒液に浸しながら呆れた声を零した。
その言葉に強い衝撃を受けていると、背後に立っていた三日月がほけほけとした様子で同調している。
先ほどまでの慌てっぷりはどこへやら、いつもの調子を取り戻している三日月を見上げた。
「同田貫よりって…僕、そんなに血の気が多い？」
「血の気が多いというより、向こう見ずのバカかな」
「同田貫は根っからの戦好きだがな、それ故場の状況を冷静に見極めておる」
「ねぇそれほとんど長義と同じこと言ってるよね？」
わざわざ"バカ"を強調して高慢に笑った長義に続いた三日月に、僕は信じられないものを見るような目で彼を凝視する。
同田貫は血気盛んで、手入れ中も出陣のことばかり話していたけど、確かに向こう見ずのバカではない。
むしろその逆で、戦慣れしているからこそ危機管理能力に長けているし、常に冷静に徹していて隙が無いことはよくわかる。
だが！三日月の言い方だと「お前は冷静じゃない」って言ってるようなものじゃないか！
そう思って抗議していると、突然ぴとりと頬に冷たいものが押し付けられて肩が跳ねた。
反射的にそちらを見ると、消毒液でひたひたになった綿をこちらに向けた薬研が、眉を下げて力なく笑っている。
「まぁ、あんたがそんな風に言われるのも無理はねぇが…そうだな。一度想像してみるといい」
「…想像？」
「あぁ。もしも、あんたの大事な存在が、あんたがこれまでやってきたような無茶をしていたらどう思うか」
頬の傷を消毒する薬研に問われ、僕はじっと動かないまま思考を巡らせる。
僕の大事な存在…例えば椿さんや、長義や、三日月が、僕がこれまでやって来たような無茶をしていたら…──
鈴蘭の毒を飲んでケタケタ笑っている椿さん。
薬研たちとの戦いで重傷を負い、意識を失う長義。
激しい風雷に身を巻かれ、突如現れた神に霊力をごっそり持っていかれる三日月…──
「…みんな強いし、僕に手伝えることは少ないのはわかってる。でも…なんでそんな無茶すんのって思うし、頼ってほしい…って、なる。かな」
口に出すうち、それが彼らが今抱いているものだと理解して、言葉の端が小さくなっていく。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
