九秋審神者、黒本丸を立て直す肆 (ページ6)

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第145話ページ6

「違うよ。信濃のせいじゃない。
こんな方法しか思いつかなかった上、長義たちに相談すらしなかった僕の自業自得だ」

零れ落ちた信濃の涙を指で拭い、頬に手を当ててこつりと額を合わせる。

「…あのね。僕、君が"助けて"って言ってくれたこと、すごく嬉しかったんだ。
僕は…刀剣男士の血が流れているとはいえ、結局人間側に近い。そんな僕が…君たちに守られてばかりの僕が、君たちを救える。
それが…どうしようもなく、嬉しかったんだ」

──僕たち審神者は、刀剣男士に守られている。
それは遡行軍からでもあり、怪異の類からでもあり、歴史通りに凄惨な末路を辿る人々の怨念からでもある。

僕たちは非力だ。
彼らを統率し、傷を癒し、主命を下すことはできても、刀は振るえないし、戦場を駆けることもできない。
守られてばかりの僕たち審神者が、彼らにしてあげられることは実に少ないのだ。

それでも…彼らが何か困った時、一番に頼る相手に自分がなれたなら。
これ以上に、幸福なことはないだろう。

まぁ…今はまだ、"一番に頼る相手"ではないけれど。
最後の手段だろうと、頼る選択肢に僕がいたのなら。
それだけで僕は、少しくらい、この本丸を立て直すという当初の目的の達成に、また一歩近づけたと思うのです。

＊＊＊

「──で？何か言うことは」

「ご心配とご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした」

椅子に座る僕のすぐ隣で長義に見下ろされ、僕は盛大に目をそらしながらそう早口で謝罪した。
そんな僕の様子にさらに目尻を吊り上げた長義は、僕の頭を掴んでギリギリと力を入れていく。

「ちゃんと！目を見て！言えないのかな!?」

「いだだだだだだごめんっごめんって！」

「おいおい、長義よ。処置中なんだからあんま動かすなって」

「あぁ、すまない」

正面の椅子に腰かけて、僕の左腕に包帯を巻いていた薬研に苦笑され、長義はぱっと手を離した。
自由な右手で頭頂をさする。頭潰れてない？これ…

──信濃の刀を解放した後、僕は薬研の保健室に連行され、傷の手当てを受けていた。
この本丸には、手入れでは治らない風邪や二日酔いなどの体調不良を診てくれる場所として、"保健室"という名目の薬研の趣味部屋が存在する。
病院みたいな独特の薬品の香りがする部屋に連れて来られた僕は、身ぐるみはがされて容赦なく全身をガーゼと包帯まみれにされているところだ。