第183話 ページ44
「──二刀、開眼！」
凛とした高らかな声と共に、二つの閃光が鬼を交差する。
目の前まで迫ってきていたはずの鬼は、加州と骨喰の連携により切り裂かれ、後退した。
けれどまだ倒れない様子に、続いて長義、三日月が刀を振るう。
「ぶった斬る！」
「はいっ！」
追撃を受けてもよろめくだけで、一向に倒れない鬼。
さすがに、三人取り込んだだけはある。
遡行軍での開発途中、鬼化した人間が暴走し、研究者や向こうの刀剣男士が大勢犠牲になったことを思い出す。
あの時は、どうやって暴走を止めたんだっけ…
この状況を打破するために記憶を掘り起こしていると、突然首根っこを掴まれて後ろに引かれ、体勢を崩す。
驚いてそちらを見上げると、元帥が顎で鬼を示した。
「髭切、膝丸。加勢しろ」
「ふふっ、待ってました」
「備品は壊さぬよう気を付けるぞ、兄者」
コツン、と踵を打ち鳴らしながら、髭切と膝丸が前へ歩み出る。
彼らも修行を終えている上、見ただけでもわかるほど練度が高い。これまで相当な修練を積んだはずだ。
頼もしい増援も加わったところで、戦いは激しさを増す。
この狭い部屋でやり合うには些か敵も大きいし、刀剣男士の数も多いため、非常にやりにくそうではあるけど…
暴走する鬼の攻撃をかわしながら、順調に攻撃を重ねていく。
しかし一向に怯まないその巨体を睥睨したまま、元帥は口を開いた。
いつの間にか澪ちゃんや浦島たちはいなくなっていて、耳を澄ますと避難指示の放送が流れている。
「貴様…時雨と言ったな。あれは、通常の遡行軍と異なるのだろう。ただ斬るだけでは終わらないのか？」
「…そうですね。あれは核となった人間の霊力を源とする術です。霊力がある限り、傷は回復し続けます。
対処法としては、霊力が尽きるのを待つか、もしくは…」
そこまで言いかけて、不意に真横の壁を何かが突き抜けていき、言葉を詰まらせる。
…見間違いでなければ、今長義がこちらに吹っ飛ばされてきた気がする…
さぁっと血の気が引くのを感じて、慌てて崩壊した壁の向こうを覗き込んだ。
「ちょ、長義!?大丈夫？」
「くっ…おい、後ろ！」
「えっ」
部屋の壁を突き抜けて廊下に転がる長義が、上体を起こした途端に血相を変えて叫ぶ。
背後に迫る殺意に気づいた時にはもう遅く、刹那のうちに接近していた鬼に体を掴まれ、そのまま壁に叩き付けられた。
「がっ…！ぐ、ぅう…ッ！」
「時雨!!」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
