九秋審神者、黒本丸を立て直す肆 (ページ43)

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第182話ページ43

「明石！小夜！主を連れてこっちに!!
加州と長義はあとの二人頼んだ！」

睡蓮を中心に広がった液体が、突然激しく発火する。
赤や紫が入り交じる炎はぶわりと大きくなり、まるで生き物のように睡蓮と近くにいた彼の取り巻きを包み込んだ。

「う"あぁッ！嫌だっ助けてくれぇ！」

「きゃあぁ！熱い、熱いッ！死にたくな…っ」

「クッソ、本当にロクなことしないな…！」

巻き込まれた二人の男女は悲鳴をあげ、もがきながら炎から逃れようとするも、あっという間に取り込まれてしまう。
そんな彼らを尻目に手を拘束していた呪符を解き、燃え盛る炎を避けて部屋の奥にいた者たちが全員避難したことを確認して、パソコンのモニターを見やる。
先ほどまでそこに映っていたはずの人物は、もうそこにはいなかった。

…ずっと静かだなと思っていたけど、いつの間に脱出したんだ、椿さん…
まぁあの人は自力でなんとかできるとは思っていたけど…

「おい、あれは一体なんだ!?」

「…あれはただの人間を、時間遡行軍に近しい怪物に変化させるものだね。時間遡行軍みたいに刀剣を持っていない分、馬鹿力な上に超硬いよ」

「はぁーっ!?何それ、そんなのアリ？」

浦島の相棒を避難させた長義の焦ったような声に返答すると、加州が刀を構えながら呆れて炎を見据える。
その背後では、元帥が澪ちゃんたちに避難勧告を出すよう指示していた。
炎は三人を取り込むと、ぶわりと熱風を吹かせながら忙しなく形を変え、やがて炎の中から巨大な影が現れる。

実はこれも、一時期遡行軍で開発されていた特殊な道具だったりする。
あまりにも戦力が足りなさ過ぎるので、人間を攫って刀剣男士の代わりをさせようという、非人道的な計画が発端だった。
なぜそのような化け物に変化させようとしたかといえば、ただの人間では刀剣男士に太刀打ちできないためである。

しかし道具自体はできたものの、この類のものは実現が難しく、人間を怪物化させることに成功しても、分別のつかない文字通り"化け物"に成り下がって見境なく周囲を破壊して回るので、結局この計画は破綻したはずだ。

そんなものをなぜ睡蓮が持っていたのかも気になるが、このままではまずい。
燃え盛っていた炎が突如として霧散すると、中から大太刀の遡行軍に似た鬼が姿を現した。

「グォオオォオッ!!」

「っく、うるさ…！」

炎から解放された鬼の咆哮に耳を塞いだ次の瞬間、それは目の前まで迫ってきていた。