第181話 ページ42
いや、厳密に言えばまったく同じではない。
先ほどここで僕らが見ていた映像の、続きのような会話が画面の奥で進められている。
「…元帥さまがこちらにご帰還なさった際、正面ホールに設置されたすべてのモニターに、この映像が流れていました。
職員に窺ったところ、ほかにも談話室や会議室などでも、同様のものが映し出されているようです」
淡々と説明する澪ちゃんの言葉に、睡蓮はどんどん顔を青白くしていく。
確かにこの政府施設内には、緊急の出動命令が発令された時のため、至る所に放送用のモニターが設置されている。
けれどまさか、そのすべてに破損したはずの映像が流れているなんて…
どういうことかと狼狽えていると、ふと平然としている加州が目に入って、まさかと唇を震わせる。
すると彼は僕が見ていることに気づいて、にんまりと楽しそうに笑った。
「ね？言ったでしょ、大丈夫だって」
その手には、白いUSBメモリを握られている。
見覚えのない新たなUSBの存在に気づいてしまった僕は、口の端をひくりと歪めて頬に冷や汗を滲ませた。
「も、もしかして…そっちが本物？」
「んー、まぁ本物というか、これはいろんな動画と一緒に契約書のデータとかも入ってる方だよ。あんたに渡した黒いやつは、動画しか入ってない」
「どうしてそんなこと…」
「敵を騙すにはまず味方から…ってね」
華麗なウインクを決めた加州に、がくりと項垂れる。
今流れている映像も、さらに別のUSBに入っているものらしい。
どうやら彼は、僕たちが思っていた以上に用意周到だったようだ。
「…もう、言い逃れはできないよ。さぁ、尋問と洒落こもうじゃないか。間者殿？」
種明かしが終わったところで、長義が垂れ落ちた前髪をかきあげ高慢な笑みを浮かべた。
しかし…顔を俯かせて拳を握り、わなわなと震える睡蓮から、まだ殺意は消えていない。
「…く…クソがッ…！こんなところで…ッ！
こうなったら、貴様ら全員道連れにしてやる!!」
「ッみんな逃げろ!!」
「うわっ!?」
恨み言を漏らす睡蓮が、胸ポケットから赤い小瓶を取り出したことに咄嗟に叫んで、僕の背後に立つ浦島を部屋の外へ逃がすように体当たりする。
事態の急変に放心していたからか、全力で身を当てた浦島はよろめいて扉に近いところまで離れた。
次の瞬間、睡蓮が床に小瓶を叩きつける。
割れた小瓶から赤黒い液体が溢れ、彼の足元に広がった。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
