第144話 神の傍観�� ページ5
白鼠色の鱗を持つ龍と、
それを見上げると、Aは一瞬目を見開いてから、すぐに目線を下げ、恭しく礼を取った。
「──長らくお力添えしていただき、ありがとうございました」
Aの言葉に龍は一つ瞬きをすると、二体で絡み合ったままAの周囲を数度周り、やがて天へ向かって飛び立っていく。
その様子を遠くから見ていた男士たちは、皆一様に声も出せないほど驚き、今目の前で繰り広げられた光景を夢か現かと疑った。
なぜならあの二体の龍は、一見しただけでわかってしまうほど、付喪神である己らより格上の存在──
──正真正銘、風雷を司る神だ。
「あぁ…本当に、意味わかんない」
龍の姿が見えなくなってそう零したAは、突然脚の力が抜けてしまったようにその場に座り込んだ。
強大な神格を持つ神の登場に呆然としていた男士たちの中で、一番に意識を現実に引き戻した三日月は、未だ息を呑んで立ち尽くす国広や長谷部を振り切って駆け出した。
「──ッ雛！」
「はは…ごめん、心配かけちゃったね。
大丈夫だよ、去り際に霊力をごっそり持っていかれただけだから」
「は…この馬鹿者！それだけではないだろう!?
こんなに傷ついて…！お前は、人間は、簡単に死んでしまうのだぞ！」
座り込んだまま信濃藤四郎を納刀したAは、初めて聞いた三日月の怒鳴り声に目を丸くする。
そしてそのまま地面に膝をついた三日月に抱きしめられ、Aは行き場のない手を広げたまま困惑したように瞬きを繰り返した。
「約束したはずだ、無茶はするなと。
頼む…もう二度と、俺に失わせてくれるな」
「…ご…ごめ、ん…」
つらく絞り出すような三日月の声音に、脳裏に浮かんだ"僕は普通の人間より丈夫だから大丈夫だよ"という言葉を飲み込む。
抱きしめられただけで感じる三日月の鼓動の早さが、Aの罪悪感をより強く煽った。
「三日月の言う通りだよ。まったく…
本当に、本当に君は目を離せないな」
三日月の後を追ってきた長義が深く息を吐くと、その隣にいた信濃が目尻にいっぱい涙を湛えて、震える声を必死に打ち出した。
「ごめん…ごめんなさいっ…俺のせいで…！」
三日月から解放されたAはゆっくり立ち上がると、信濃の手を取り刀を握らせた。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
