第179話 ページ40
「ちょーっと待ったー！」
その時、突如として部屋の扉が開け放たれ、加州清光が現れた。
一瞬どこの加州かと驚くも、紛れもないうちの加州でさらに困惑する。
今まで単独行動をしていた彼がやって来たということは、用事は終わったのだろうか…？
さらなる刀剣男士の登場により皆が動揺していると、加州は腰に手を当てて憤慨した様子で長義を指さした。
「何やってんの、長義！そんなものさっさと渡しちゃえよ！」
「は、何言ってんの加州！そんなのだめだよ！」
このUSBの重要性を一番理解しているはずの彼がとんでもないことを言いだして、僕は思わず身を乗り出して抗議する。
その拍子に少しだけ浦島の刃が首をかすめたけど、慌てて刀を離してくれたおかげで極浅い傷で済んだ。
けれどそれに気づいたのか、三日月が背後に猛吹雪を背負ってこちらをじっと見つめている。浦島も三日月の眼差しの巻き添えになって、肩を震わせた。なんかごめん。
しかしそんなことを気にしている余裕もなく、加州に名指しされた長義に視線を移す。
彼は強く葛藤するように口元を引き結び、手の中のUSBを睨みつけた。
これ以上長義の判断を揺るがすまい、と口を開こうとすると、それより先に加州がツカツカと長義に歩み寄って、その胸倉を掴み上げた。
「迷ってんじゃねーよ。また俺たちに主を失わせる気？」
「…だが、これは君が命を賭して集めたものだろう。
君にとって、彼にはそれと同じほどの価値があると？」
まるで僕に価値がないと言いたげな長義だけど、それが本心でないのはわかる。正直それには僕も同意見だし。
三日月たちならまだしも、加州とは出会って一日も経っていない。だというのに、初代の仇に報いるための大事な証拠と天秤にかけて、迷わず僕を選ぶのはなぜなのか。
加州の思惑が掴めず、息を呑んで成り行きを見守っていると、彼は長義の問いに不敵な笑みを浮かべて見せた。
「──当たり前でしょ。あの人が選んだんだから」
「あの人…？」
「…大丈夫だよ。俺を信じて」
どこか含みのある言葉を濁すと、加州は長義から手を離した。
"あの人"という言葉の意味に口を閉ざす加州の目を真っ直ぐ見据え、長義は一度目をきつく瞑ると、意を決したような強い色をその目に宿して睡蓮の方を向き──
──そちらにUSBを投げ渡した。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
