九秋審神者、黒本丸を立て直す肆 (ページ39)

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第178話ページ39

「時雨！」

突然現れた小夜に気を取られていた三日月が、こちらに気づいて声を上げる。
僕は呪符を解こうとしていた腕から力を抜いて、首元に刀を当てたまま後退する浦島に大人しく歩幅を合わせた。

「ごめん、油断した…」

「っは、ははは！馬鹿め、この程度で私を出し抜いたと思うなよ！」

高らかな笑い声をあげる睡蓮を無視し、素早く周囲に視線を走らせる。
長義に不意打ちをかました小夜は、皆の視線誘導が目的だったようで、僕が捕まると長義から距離を取り、僕らを背に三日月たちの方へ刀を構えた。
そしてそれまで静観していたもう一振の刀剣男士、明石国行もこちらに歩み出て、僕らを奪われまいと背に庇うようにして同じく抜刀している。
そんな彼らの様子を、相棒と思しき男女三人が不安そうに見つめていた。

なるほどね…彼らが指示したのか。
けれどその様子はどことなく不本意というか、まるで己の意思ではないように暗い顔をしている。
小夜の相棒と見られる女に至っては、今にも泣き出しそうになっているし。

さては、もしもこういう事態になった時、自分を刀剣男士に守らせるよう睡蓮が指示してたな？
それに反したら罰する、などと脅したのかもしれない。

本当に卑怯な奴だ…と忌々しく思いながら、これからどうするか思考を巡らせていると、調子を取り戻した睡蓮が余裕たっぷりに言い放った。

「残念だったな、山姥切長義よ。結局、貴様らは結託して私を陥れようとしていたというわけか。
ならば取引だ。そのUSBをこちらに渡せば、こいつは解放してやる。しかし…渡さないというのなら、わかるな？」

浦島の手に力が篭もる。彼の相棒と思しき男は、それを悲痛そうな眼差しで見つめていた。
一方の長義たちといえば、下手に動くと僕の首が飛びかねないため、抜刀も出来ずに緊迫した面持ちで息を飲んでいる。

そんな彼らに向けて、僕はいつも通りの声音をはっきりと打ち出した。

「渡しちゃだめだよ、長義。わかってるよね、僕たちが何のためにここまで来たのか」

「……」

長義は眉を顰め、手にしたUSBを握りしめる。
きっと冷静な長義なら、どちらを優先すべきかなんてちゃんと理解できるはずだ。
けれどすぐには頷かない彼に、僕は眉を下げる。

…初めの頃と比べて、随分心を許してくれたんだ。
もっと仲良くなりたかったなぁ…

「──そいつを殺せ、浦島虎徹」

睡蓮の言葉に、浦島は震える手を誤魔化すように息を吐いた。