第176話 ページ37
僕には、共に自分たちの宝を奪った者に報いようと誓った、仲間がいるんだ。
だから、大丈夫。こんなやつに捕まる心配はしなくていい。
三日月のおかげで正気を取り戻した僕は、後ろに縛られた手で軽く三日月の服の裾を引いた。
すると彼は首から手を離し、殺気にあてられて意味の分からん言い訳をペラペラと並べ立てる睡蓮を睥睨している。
よし…ここからどうしようか。
まだ澪ちゃんが戻るまで掛かりそうだし、どうにか時間を稼がないと…
そう思って周囲を見回すと、ふと大量のモニターが目に入る。
そこに映るものに気がついた僕は、驚愕のあまり目を見開いて…それと同時に、聞き慣れた声が機械を通したみたいな音で響いた。
《おい…そこに、時雨がいるのか》
スピーカーから鳴った声に長義たちも気が付いて、モニターに視線を移す。
そこには…傷だらけで椅子に縛り付けられた、椿さんがいた。
「なっ…椿さん!?」
《いるんだな。はぁ…ったく、遅ぇよ》
モニター越しにこちらを睨みつけた椿さんは、口元に不敵な笑みを浮かべている。
見た目はすごくボロボロだし、実際辛いんだろうけど、僕が来たことで少し安心したのかもしれない。
恐らく、このガラス張りになっている向こうを覗くと地下空間があって、その中に椿さんは閉じ込められているのだろう。
これ…宗近が見たらやばいかも…と一人背筋が凍るのを感じつつ、思ったより余裕そうな椿さんにため息をついた。
「そんなこといっても、仕方ないじゃないですか…先に言っておきますけど、まだですからね」
《はァ〜いい加減飽きたんだが？煙草吸いたい…》
「吸ったらまた宗近に内臓引きずり出されますよ」
《やだ…》
「じゃあ我慢してください」
こちらとはマイクで繋がっているようなので、遠慮せず椿さんを励ます。
僕の言葉に少し周囲がどよめいてるけど…違うからね。本当に内臓引きずり出してるわけじゃないからね。比喩だからね。
すると、その様子をぽかんと口を開けたアホ面で眺めていた睡蓮が、途端に顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげた。
「な…何を呑気に喋っている！貴様らはこれから処刑されるのだぞ!?命乞いの一つでもしてみたらどうだ！」
さっき長義に「彼はまだ重要参考人だ」って言われたばかりなのにもう忘れたのかな？この鳥頭め。
「命乞い、ね…
それをした方がいいのは、あんたの方かもよ？」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
