第173話 ページ34
周囲の視線に晒されながら歩きつつ、ここに至るまでの経緯を思い返す。
僕らの目的は、二代目と睡蓮が歴史修正主義者と繋がっていたという証拠を中央軍部の元帥に提出し、奴らの悪事を暴くこと。
しかし、それには討伐課がうちの本丸に攻め込むのを阻止する必要があった。
そこで、手っ取り早く長義や三日月たちが怪しい動きをしていた僕を捕獲し、政府に連行したということにしたのである。
そうすることで本丸のみんなは無関係で僕の単独ということになり、討伐課が本丸に行く必要がなくなる。
ちなみに殴られた左頬は、実際に争ったというカモフラージュのため長義にやってもらった。
ちゃんと手加減してくれたおかげで歯は折れなかったけど、これでも長義があの面子の中で一番打撃力が低いという事実に内心震える。
短刀とはいえ、澪ちゃんのところの極めている今剣や平野に頼まなくて正解だった…
そしてそのまま直接元帥の元に赴き、証拠となるUSBを叩きつけて真実を公開し、そのまま睡蓮たち関係者を一網打尽…というのが、この先の作戦だ。
だが、ここで予定外のことが発覚する。
この中央軍部の責任者であり、椿さんが「信用してもいい」と断言していた中央軍部元帥が、現在政府本部へ会議に赴いており不在なのだ。
そのことに気づいたのは澪ちゃんで、彼女には本部にいる元帥の元へ伝令を届けるよう頼んでいる。
実は…彼女が度々口にしていた「パパ」とは、この元帥の事だったりする。
彼女は元帥の娘なのだ。血は繋がってないらしいけど。
彼女が元帥をこちらに連れてくるまでの間、僕たちは時間稼ぎをしなくてはならない。
相手がどう出るかわからない以上、下手なことはできないけれど…椿さんのことも心配だし、何よりいつも先輩の傍にいた宗近も、現在隔離されて封じられているらしいので不安だ。
あの刀、椿さんの身に何かあったら怖いからな…と俯いたまま心の中で遠い目をすると、周囲に人がいなくなったのを見計らって、骨喰が口元を寄せた。
「…加州は、大丈夫だろうか」
「…わからない。けど、信じよう」
ぽそりと囁かれた骨喰の言葉に、僕は小さく返答する。
一緒に政府に来ていたはずの加州がここにいない理由は、彼が別行動をしたいと申し出たからだ。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
