第171話 ページ32
本当に、悪い予感ってやつはいつも当たるなぁ…！
こちらに転移して来てからやけに署内が騒がしく、空気がヒリついていると思ったら、そういうことだったのか。
下手に動けば捕らえられるし、このまま隠れていては本丸が攻め込まれる…
進んでも下がっても詰んでいる状況に歯噛みし、壁の影からそっと周囲の様子を探る。
政府職員たちは慌ただしく駆けまわっており、準備は着々と進んでいるようだった。
「どうしよう…そのUSB、澪が届けに行こうか？」
「いいや…それだと、そちらで話を付けている間に討伐課が乗り込んでくるかもしれない。どうにか討伐課の動きを止めつつ、これを元帥に届けなきゃ」
「もういっそ、ここで交戦してしまうというのはどうかな？」
「ダメに決まってるでしょ、絶対穏便に済ませた方がいいって」
「何か手立てはあるのか？」
澪ちゃんの提案に首を振り、最近ずっと蔵に篭もりっぱなしだったせいで、血が騒いでいるらしい長義に小声でツッコむ。
すると一番奥の暗い影に身をひそめていた三日月に問われ、僕は腕を組んでしばし考えてから、おもむろに懐に手を入れて札を一枚取り出した。
それを皆に見せつけて、悪役のような嫌らしい笑みを浮かべる。
「向こうが僕のことを探してるって言うんなら、お望み通り登場してあげようか」
＊＊＊
──…一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めていくたびに、周囲のざわめきが大きくなっていく。
僕の前を歩く長義はそんな緊迫した状況でも変わらず、優雅に踵を鳴らしながら進んだ。
左右斜め後ろを固める三日月と骨喰も、その足取りは堂々としており、一切の隙も感じられない。
そしてこの三振りに囲まれたまま、中央軍部施設の正面ホールを進む僕と言えば…
拘束の呪符で後ろ手に縛られ、左頬を真っ赤に腫らし、憎悪の色に染まった瞳で俯いていた。
すると正面から数人のスーツの人間と、戦装束の刀剣男士が複数駆けてくる。
その前で足を止めた長義は、困惑と焦燥でいっぱいの彼らに向け、高慢そうにふんと鼻を鳴らした。
「一体これは、何の騒ぎかな？」
「ちょ、長義さん…！実は、討伐課第一班班長の椿に、反逆の容疑がかけられておりまして…それで、先日麝香連理草城に配属された審神者が共犯であるとの報告を受け、これから調査に向かうところだったのですが…」
「なるほど、ならば丁度いい。
彼はつい先刻、本丸内にて怪しい動きをしていてね。今しがた連行してきたところだ」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
