第169話 ページ30
けれど、確かにそれも心配なところではなるが、今回彼は連れていけない。
「確かにそれは不安だけど、国広は本丸に残ってほしい。相手は遡行軍と繋がっていて、尚且つこの本丸の位置が把握されてる。
もし奴らにこちらの動きがバレて、遡行軍を送り込まれでもしたら不味い。だからその時のため、君にはここに残って指揮をとってほしいんだ」
ここの初期刀であり、極めてから随分長く修練を重ねてきた国広は、恐らくこの中で一番強い。
総隊長の三日月を連れていくのに彼も連れていくとなると、この本丸の戦力が手薄になってしまう。その隙を突かれるのは非常に痛いので、国広にはここに残ってもらう必要があった。
そのことを伝えると彼はしばし黙考してから、心得たように頷く。
「わかった。では、代わりに骨喰藤四郎を連れて行くといい。あいつは脇差の中で唯一修業を終えていて、俺の次に三日月の手綱を握るのが上手いからな」
「手綱…」
「んぐっ…」
至極当然のように天下五剣を暴れ馬扱いする国広と、しゅんと肩を落とす三日月につい噴き出しそうになってなんとか耐えた。
修行を終えた山姥切国広って、こんなに図太いんだな…いや、個体差もあるだろうけど。
ごほんとわざとらしく咳払いをしてから、気を取り直して国広を見返す。
「僕は骨喰に来てくれたらすごく助かるけど…その骨喰は、大丈夫なの？」
「問題ない」
「うわっ!?」
突然背後にシュッと残像のように現れた骨喰に、大きく驚いて飛び退いた拍子に国広に激突した。
難なく受け止めてくれた国広に謝ると、彼は真顔でピースする骨喰に呆れかえる。
「骨喰…あまり驚かせてやるな」
「すまない。先日、鶴丸に教えてもらった驚き術を試したかったんだ」
「そうか…あとで鶴丸と話さなきゃいけないな」
どこかで鶴丸の「ひぇっ」という小さな悲鳴が聞こえた。いつの間にか大勢の男士が集まってきているけど、たぶんどこかにいるなこれ。
ご愁傷様…と心中で唱えつつ、改めて骨喰に向き直った。
「えっと、骨喰。僕と一緒に来てくれる？」
「あぁ、任せてほしい」
実は、骨喰とはこの本丸に来た初日に手入れ部屋で出会っていた。
中傷だった彼は、重傷を負って手入れ部屋で眠っていた鯰尾藤四郎の傍に居たのだが、ひと悶着あって二振りとも手入れし、それから度々資材の整理を手伝ってもらったり、おやつの時間には一緒に食べたりする仲まで発展している。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
