第168話 ページ29
それに満足気な笑みを浮かべて、呆然とする周囲に構わず、加州はUSBメモリを僕に握らせた。
「俺、三代目としてここを継いだ審神者にこれを渡すために、ずっと待ってたんだ」
嬉しそうな加州の言葉で、ようやく意識が現実に引き戻される。
けれど理解はできなくて、震える手の中のUSBメモリと加州を交互に見比べた。
「な…え、どういう…な、なんで君がそんなものを…」
「あれ、聞いてない？俺、二代目の時ずーっと近侍してたんだけどさ。ある日、みんなが遠征や出陣でいない時に、たまたま二代目と政府の男が密会してたのを見つけちゃって。
そこから少しずつ少しずーつそういうの集めてて、そしたらまぁ、バレて破壊寸前までにされて、あの刀箱に閉じ込められてたってワケ」
腕を組んで忌々しそうに言い捨てた加州に、やっぱり違和感が募るけど、それに気づいたのは僕だけのようで皆は加州に迫り寄った。
「お前さ…本当にお前さぁ！そういうことは僕たちにも言ってよ！何一人で抱え込んでかっこつけてんの!?」
「そうだぞ、水臭ぇじゃねーか！」
「頼むから、防人作戦の時の三日月殿みたいなことしないでくれ…肝が冷えたぞ」
「あなや…」
大和守と和泉守に板挟みにされて嫌そうな加州に、長曽祢が頭を抱える。
突然飛び火した三日月は驚きの声を上げ、気まずそうに視線をそらした。
…気になることも聞きたいこともいろいろあるけど、今はそっとしておいた方がいいかな。というか、それどころじゃない。
手の中のUSBメモリをじっと見つめてから、それを握りしめて澪ちゃんを振り向いた。
「時雨くん…！」
「あぁ…これがあれば、椿さんを救える！
よし、さっそく政府に乗り込むよ！三日月、長義、加州！同行をお願い！」
「あいわかった」
「あぁ、行こうか」
「りょーかい！」
素早く指示を出し、僕も準備のため長義と共に客室へ向かおうと踵を返すと、いつの間にか背後に立っていた国広に行く手を阻まれる。
彼は普段の内番着ではなく、戦装束を身に着けていた。
「俺も行く。主が消えた原因かもしれない人間の元に行くんだろう？…三日月のストッパーは必要なはずだ」
「や、山姥切よ…心配せずとも、俺はそこまで短気ではないぞ？」
国広の言葉に三日月が口元を引きつらせる。
まぁ、国広の言うこともわからんでもないな…三日月、初代と恋仲だったわけだし。何かの拍子に糸が切れて、暴走とかしそうだよな…
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
