第167話 ページ28
けれど──
「…長義。蔵の中に、証拠になりそうなものあった?」
先程まで蔵を調査していたはずの長義に問うと、彼は苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、首を横に振った。
「残念だけど…どれだけ探しても、何も見つけられなかった。すまない」
「そっか…不味いな、まさかこんなに早く奴らが動くと思ってなかった…確かに怪しいところはあるけど、決定的な証拠がない…!」
「そんな…!じゃあどうするの?椿さん見捨てるつもり!?」
「見捨てることなんてしない、絶対に!でも…っ…このままじゃ、どうにも…」
噛み締めた唇に、鉄の味が滲む。
椿さんが集めた情報がどれほどのものか分からないけれど、それが改ざんされたということは、もっと覆しようがない決定的な証拠を提示しなければならない。
けれど、この本丸の二代目と政府、そして遡行軍の関係は"怪しい"というラインを脱しておらず、証拠とは言えないものばかりだ。
このままでは、椿さんが…!
ぐらりと視界が歪んだ──その時。
「──あの〜。ちょっといい?」
重い静寂を破って挙手したのは、先ほど目覚めたばかりの加州だった。
その隣の大和守は「え…?お前ここで発言すんの…?」と言いたげなドン引きの眼差しで彼を凝視している。
それに構うことなく、加州は一切の注目を浴びながら凛とした声を辺りに響かせた。
「あのさ。俺、三代目に渡したい物があるんだけど」
「…そういえば、さっきもそんなこと言ってたね。今じゃなきゃだめ?」
「だめ。むしろ今しかない」
「…?」
断固として意志を曲げようとしない加州を訝しみ、今度こそ懐から取り出された"それ"を目にする。
加州の手に乗って差し出されたそれは、片手ですっぽり覆い隠せるくらい小さな、長方形の黒い板…
「これ…USBメモリ?」
椿さんや長義が仕事の際よく使っている、データを保存するための端末に首を傾げると、加州はこくりと頷いた。
「そう。これには、当本丸の二代目審神者及び、政府関係者が歴史修正主義者と取引を行っている様子の映像と音声、そしてその時使用された、拇印と直筆サイン入り契約書のデータが入ってる」
「……な」
突如としてつらつらと語られた情報に頭が追いつかず、呆然と加州とUSBメモリを見比べる。
そして同じように硬直していた周りの者と、一斉に悲鳴を重ね合わせた。
「なんだってぇええええええ!?」
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時