第165話 ページ26
「あぁーっ！時雨くん発見〜!!」
「なっ…ななななな、なんで!?
澪ちゃん！何してんの!?」
見覚えのある特徴的な能面と、鈴のように軽やかで可憐な声にその正体の名を叫べば、周囲の刀が困惑すると同時に向こうから長義がやって来た。
「雛よ、あれは知り合いか…？」
「う、うんまぁ…あの子も審神者でね、僕よりずっと審神者歴長い先輩なんだけど、一緒に椿さんの授業受けたりしてたかな…」
「おい!!澪!!お前は!!門を壊すなと!!あれほど!!!!」
「やっべちょぎたそもいる」
極長谷部に抱えられたままこちらに向かう澪ちゃんは、般若の面をつけているかのように迫って来る長義を見つけてぼそりと呟いた。
本物の能面をつけている澪ちゃんより、心の面をつけている長義の方が本物感あって恐ろしいのはなぜだろう…
ちなみにこの澪ちゃんこそ、僕のゲロスーツを処理したり、バウムクーヘンのおつかいを頼んだり、僕に"確定演出きちゃー！"を教えてくれた張本人だったりする。
しかし珍しく長義から逃げることをせず、澪ちゃんは真っ直ぐにこちらにやって来た。
極長谷部に降ろされると、彼女は僕にずいっと近づいて両手を掴み取る。
「時雨くん聞いて！大変なんだよぉ!!」
「ど、どうしたの？てかあの通用門何？あれがもはや大変なんだけど」
「あれね、呼びかけても誰も返事しないから、長谷部に圧し切ってもらっちゃった！」
「主命とあらば」
「修理費は後でうちのパパに請求しといてねっ！きゃっ」
「請求しといてね、じゃない！まったくお前はいつもいつも!!先々月破壊した政府の転移ゲートもまだ修理が終わってないんだぞ！あの貴重な設備のために一体どれだけの資材と人員と手間が費やされていると──!!」
澪ちゃんの首根っこを掴んで僕から引きはがすと、長義はまくし立てるように怒鳴りつける。
完全お説教モードに入ってしまった長義に視線を彷徨わせ、澪ちゃんは長谷部に手を伸ばした。
「は、長谷部ぇ〜助けてぇ」
「主。あの転移ゲートが使用不可になったことにより、我々の本丸に戻るにはほかのゲートを二つ経由する必要があります。有事の際を考えると非常に痛手です」
援護要請も虚しく、極長谷部は至極冷静に切り捨てた。
…これが個体差なのか極めた影響かはわからないけれど、相変わらずこの長谷部は自分の主に優しいが甘くは無い。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
