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第164話 ページ25

そんな様子を遠い目で見つめていると、ようやく解放された加州は、肩で息をしながら大和守を振り向いた。


「はぁ…ったく。で?安定。二代目は?」

「あいつならもういないよ。死んだんだ、一年前に。
だから安心していい」

「…そ。じゃあやっぱり、あんたが三代目ってわけか」


大和守の言葉に、一瞬、本当に気のせいかもしれない程度に眉を寄せた加州は、すぐにそれまでの調子に戻って僕に視線を移す。
その様子に何か違和感を覚えて、僕は彼の紅の瞳を見つめたまま首を傾げた。


「そうだけど…何か、あんまり新しい審神者が就任してることに嫌悪したりしないんだね?」


てっきり、ほかの男士たちと同じように、また自分は無害であることを証明する必要があるかと身構えていたのだが、けろりとした加州の態度に拍子抜けする。
僕の疑問に「あぁ」と短く合点が行ったような声を漏らすと、加州は体ごとこちらを振り向いて、真摯な眼差しで僕に対峙した。


「それはそうだよ。だって俺、あんたを待ってたんだから」

「え…僕を?」


待っていたとはどういうことだろうかと思案しかけて、続いた加州の言葉に思考を止める。


「あんたさ、俺を見つけられたってことは、ちゃんと全振り手入れしてくれたんだよな?」

「う、うん。もちろん」

「信濃藤四郎や太鼓鐘貞宗、五虎退と村雲江も?」

「!…うん。一振りも漏らさず、きっちり完了したよ」


加州が挙げた彼らは、全振りが何らかの呪いなどに苦しめられていた者だ…
彼の意図が掴めず、ただその瞳を食い入るように見返すことしかできない。
そうしていると、加州は僕の瞳から何かを読み取ったのか、目を伏せてから浅く息を吐いた。


「…わかった。あんた、名前は?」

「…審神者名は、時雨だよ」

「そう。じゃあ時雨。俺はあんたにあるものを渡すために、ずっと待っていたんだ」

「あるもの…?」


何が飛び出るのかまったく予想がつかず、懐に入れた加州の手をじっと見つめる。
──その時だ。


「っな、何?何の音!?」

「敵襲か!?」


突如として、遠くの方から何か重いものが破壊されたような激しい轟音が響き渡った。
地面が揺れるほどの衝撃に、皆の間に緊張が走る。
状況把握のためすぐに手入れ部屋を飛び出すと、そこにあった光景に目を剥いた。

──無惨に破壊された通用門を背に、極のへし切長谷部に抱えられ、小面(こおもて)をつけたセーラー服の少女がこちらに向かってきている。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時

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