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第162話 ページ23

追ってきた中に三日月の姿がないことを確認する。
恐らく、彼もこの刀箱の存在を思い出して手入れ部屋に残り、手入れの準備をしてくれているのだろう。
彼の機転の早さに内心感謝しつつ、動揺する大和守たちの前で大きく息を吸いこんだ。


「──ッ道を開けろ!!いろいろ考えるのは後だ!
今は加州清光の修復を最優先とする!!」


びりびりと空気が震えるほどの声に、彼らは血相を変えて道を開けた。
実はこれ、声に霊力を載せることでできる威嚇の術だったりする。刀剣男士に力で敵わない審神者が、一瞬の隙を作るためのものだ。

椿さんにしごかれながら必死に会得したこれが、まさかここに来て役に立つとは…とあの日椿さんの威圧にやられて腰を抜かした自分を思い出し、無駄じゃなかったと内心こっそり安堵する。
でも、三日月や小烏丸にはまだまだ効かないんだろうな…

…そんなことを考えられるくらいには、余裕が戻ってきたな。こういう時に冷静さを欠くのはよくない。
中が揺れないよう慎重に、けれど足早に刀箱を運びながら頭の中を整理していく。

なぜ今まで気づかなかったのかが本当にわからないが、確かに加州清光は重傷者としてこの本丸の所属リストにいて、けれどここに来て一度も彼の姿を見ることはなかった。
記憶力で失敗するなんてこれが初めてだ。自分のことを過信しすぎた。

それから、政府のデータでは加州はまだ生存しているのに、この本丸では折れたことになっていたらしい。
二代目がどんな意図をもってそんな嘘を彼らについたのか…下手をすれば、闇討ちされてしまうかもしれないのに、どうしてそんなリスクを背負う必要があったのか。

これはもしかしたら、加州に聞けばわかるのかもしれない。
あの暗い地下で、五虎退の虎と共に封じられていた加州…その箱が開いた理由も、何が足りなかったのかもわからないけれど、とにかく今は手入れをしなくては。

手入れ部屋に辿り着くと、予想通り三日月が資材や手伝い札の用意をして待ってくれていた。
彼は僕が持つ刀箱に気づくと、緊迫に表情を強張らせる。


「まさか…本当にその中に、加州が」

「うん。気になることはいろいろあるけど、ひとまず手入れを」

「あぁ、頼んだぞ」


そう言い残すと、三日月は手入れ部屋を出て障子を閉めた。
深く息を吐きだしてから、意を決して刀箱を開き、加州清光を手に取る。
破壊寸前の彼だが、まだ折れていない。
慎重に、慎重に目釘を抜いて、刀身を柄から外した。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時

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