第160話 ページ21
憎々しく吐き捨てるような大和守の言葉に、ぐらりと視界が揺れる。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、けれどたった一つだけはっきりと浮かぶその記憶と現実が合致せずに、余計に混乱で目が回った。
雑に涙を拭い、恨めしそうに唇を噛み締める大和守に、僕は震える手を伸ばした。
「そんな…それは、最近の話…?っ」
「違う!あいつは、一年前…
二代目が死ぬ、三日前に折られた!!」
伸ばされた僕の手を乱暴に叩き落して、大和守は吠える。
手入れ部屋の前で待機していた三日月たちも異変に気付いたようで、慌てた様子で中に駆け込んできた。
「おい、大丈夫か!?」
「落ち着け安定!」
「雛よ、大事ないか」
今にも僕に飛び掛かろうとしていた大和守を、長曽祢と和泉守が取り押さえる。
放心して尻餅をついていていると、膝をついた三日月が僕を背に庇うように大和守を見据えた。
堀川も僕と大和守を隔離するように立ち塞がっている。
そんな様子をぼんやりと眺めながら、僕は制約が発動していないはずなのに苦しい喉を必死に開き、ぽつりと呟いた。
「加州が…一年前に折られてる…?
そんなの、嘘だ…」
「ッ嘘じゃない!清光は、あいつに──!」
「だって」
僕の小さな呟きはしっかり拾われ、一瞬の静寂が訪れたが、すぐに大和守が否定に牙を剥く。
けれど、僕はそれに構うことなく、掴み取った糸をずるずると引き出すように言葉を続けた。
「だって…僕がこの本丸に来る前に見た所属刀剣男士のデータには、加州もちゃんといて…そうだ…重傷だったけど、加州はちゃんといたんだ…なのに…」
「…雛?」
瞬間、引っ張り出した糸の先にあるものに気づいて戦慄し、僕は訝し気にこちらを覗き込んだ三日月を見上げる。
「そう…そうだよ。ずっとおかしいと思ってた。なのに気づけなかった…!」
「一体どうしたのだ、時雨!」
ざわりと粟立つ肌をさすると、三日月が動揺したように肩を掴んだ。
僕の異変に気付いたのか、大和守も苦々しい顔でこちらを凝視し、和泉守や長曽祢も息をひそめている。
それに気づかぬまま、僕は縋るように三日月の服を握った。
「僕が事前に見た資料には、この本丸の重傷者は二十一振りいたんだ。
でも、実際に手入れしたのは、手入れ部屋から連れ出されていた太鼓鐘と不動を入れても、ニ十振り…一振り、足りないんだよ!」
それから三日月を振り切り、堀川の背後から顔を出して大和守を真っ直ぐに見据えた。
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時