検索窓
今日:22 hit、昨日:173 hit、合計:29,253 hit

第156話 ページ17

「お転婆で我が強く、悪戯好きな上に勉強嫌いでな…教育係の歌仙を怒らせては、よく俺のところに泣きつきにやって来たものだ」

「うん…まぁ、小学生くらいまでなら…大体そうじゃない?」

「それが、齢二十を迎えてもあまり変わらなんだ。はっはっは。
さすがに泣きついてくることは無くなったが、代わりに歌仙との攻防が激しくなってな…まるで、本当の親子のようだった」

「……」


優しい顔で初代の思い出を語る三日月は、よそ者の僕が見ていても切なくなるほど、行き場のなくした溢れるばかりの愛を持て余しているようだった。
…この顔を、僕は知ってる。


「ねぇ、三日月。あのさ、こういうこと聞くのって、あまりよくないかもしれないんだけど…
…初代と想い合っていたりとか…した?」


遠慮がちな僕の言葉に目を丸くすると、やがて三日月はゆるゆると視線を落とし、観念したように息を吐いた。


「あぁ…そうだな。
俺は、主と──…」


その先の言葉が途切れて、耐え切れなくなった僕は膝立ちになって、隣に座る三日月を抱きしめた。
それからさっき三日月がやってくれたみたいに、優しくその頭を撫でつける。


「…ごめん」

「ふふ、何を謝る必要がある」

「だって。だって…もしも僕が、もっと早くこっちに来ていたら…初代の事、僕が逃がしてあげられたら…」

「雛。そのようなもしもの話はするな。
お前がここに来て、こうして俺たちを救ってくれたこと…それだけで、十分に幸福なことなのだから」


静かに背中に腕を回され、まるで赤子を宥めるように優しく背中を叩かれる。
それが余計に涙腺を刺激して仕方がなかったけれど、僕は必死に耐えた。

だって、三日月が泣いていないのに僕が泣いたら、それだけで彼は自分の気持ちを整理してしまう気がしたから。


「…………」

「……うわぁあああっ!?」

「むっ!?な、なんだ、どうした」


途端にじっとりとした視線を感じて顔を上げると、複数の刀が部屋の障子の影からこちらを覗いているのを発見し、思わず驚いて後ろに飛び退き壁に激突してしまった。
それにさらに驚いた三日月は僕の視線の先を目で追い、そこにいた影に目を丸くする。


「おぉ…和泉守に堀川か。どうした?そんなところで何をしておる」

「いや…何してるはこっちの台詞だっつーの。真昼間から堂々と浮気か?」

「そうですよ、三日月さん!主さんというものがありながら」

「お前たち、何か勘違いをしておるな?」

第157話→←第155話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (64 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
255人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。