第156話 ページ17
「お転婆で我が強く、悪戯好きな上に勉強嫌いでな…教育係の歌仙を怒らせては、よく俺のところに泣きつきにやって来たものだ」
「うん…まぁ、小学生くらいまでなら…大体そうじゃない?」
「それが、齢二十を迎えてもあまり変わらなんだ。はっはっは。
さすがに泣きついてくることは無くなったが、代わりに歌仙との攻防が激しくなってな…まるで、本当の親子のようだった」
「……」
優しい顔で初代の思い出を語る三日月は、よそ者の僕が見ていても切なくなるほど、行き場のなくした溢れるばかりの愛を持て余しているようだった。
…この顔を、僕は知ってる。
「ねぇ、三日月。あのさ、こういうこと聞くのって、あまりよくないかもしれないんだけど…
…初代と想い合っていたりとか…した?」
遠慮がちな僕の言葉に目を丸くすると、やがて三日月はゆるゆると視線を落とし、観念したように息を吐いた。
「あぁ…そうだな。
俺は、主と──…」
その先の言葉が途切れて、耐え切れなくなった僕は膝立ちになって、隣に座る三日月を抱きしめた。
それからさっき三日月がやってくれたみたいに、優しくその頭を撫でつける。
「…ごめん」
「ふふ、何を謝る必要がある」
「だって。だって…もしも僕が、もっと早くこっちに来ていたら…初代の事、僕が逃がしてあげられたら…」
「雛。そのようなもしもの話はするな。
お前がここに来て、こうして俺たちを救ってくれたこと…それだけで、十分に幸福なことなのだから」
静かに背中に腕を回され、まるで赤子を宥めるように優しく背中を叩かれる。
それが余計に涙腺を刺激して仕方がなかったけれど、僕は必死に耐えた。
だって、三日月が泣いていないのに僕が泣いたら、それだけで彼は自分の気持ちを整理してしまう気がしたから。
「…………」
「……うわぁあああっ!?」
「むっ!?な、なんだ、どうした」
途端にじっとりとした視線を感じて顔を上げると、複数の刀が部屋の障子の影からこちらを覗いているのを発見し、思わず驚いて後ろに飛び退き壁に激突してしまった。
それにさらに驚いた三日月は僕の視線の先を目で追い、そこにいた影に目を丸くする。
「おぉ…和泉守に堀川か。どうした?そんなところで何をしておる」
「いや…何してるはこっちの台詞だっつーの。真昼間から堂々と浮気か?」
「そうですよ、三日月さん!主さんというものがありながら」
「お前たち、何か勘違いをしておるな?」
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時