第155話 ページ16
──…先日失踪した討伐課第二班の班員の本丸、初期メンツが江の刀だった気が…
この間、椿さんからその班員の話を聞いたばかりなので、間違いない。
ましてや、秘宝の里の任務でしか出会えない江の刀たちが初期メンツの本丸なんて早々ないし、聞いた話ではその一件しかなかった。
つまり、これは…
まだ若干コップに残っていた水を飲み干し、混乱し始めた頭を落ち着かせる。
そして冷静になったところで、一つの結論を出した。
"このことはまだ言うべきでない"。
言ったところで混乱させるだけだし、そもそも消息が掴めていない状態で伝えても、助けに行く手立てもない。
悪戯に彼に不安を抱かせるのは得策ではないと判断し、このことを胸に仕舞った。
「…どうした？まだ、制約の余波が残っておるのか？」
胸に仕舞うと想像以上に重くて、それを少しでも吐き出そうと深いため息をついていると、心配そうな三日月に顔を覗き込まれた。
本刃に話してもないのに、他刃に話すのは良くないよなと思って、咄嗟に言葉を連ねる。
「あ〜いや、それは大丈夫」
「ならば、何か気にかかることでも？」
「うーん…なんというか、ほら。村雲江の主も、ここの初代も、すごくいい人みたいだから…本当に僕に後釜が務まるのかな？な〜んて…はは…」
そういって頬を掻く。少し苦し紛れだったかな…
と不安に思っていると、三日月はそれをどう受け取ったのか、ふっと笑って僕の頭を撫でた。
「案ずるな。お前ならば、この本丸の頂点に立つに相応しい。それに…お前が思うほど、初代は出来た人間ではなかったぞ？」
「えっ!?」
あれほど初代を慕っていた三日月から出た衝撃の言葉に、思わず本気で驚いて大声をあげる。
そんな僕にころころと笑ってから、三日月は昔話をするような落ち着いた声音で語り始めた。
「初代が審神者に着任したのは、あれがまだ随分幼い頃でな…このような幼子に我らの将が務まるのかと、初めは俺を含む初期の面々は皆不安を抱いておったな」
「それは…でも、子供なら仕方ないし…成長するにつれて、大丈夫になっていったんでしょ？」
「はっはっは、それはどうだかなぁ」
「えぇ…」
朗らかに笑う三日月に、口元を引きつらせる。
ここまで大らかな天下五剣にそこまで言わしめるとは、一体どんな人だったんだ、初代は…と気になって話の続きを促すと、三日月は穏やかな笑みを頬に浮かべて目を伏せた。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
