第151話 ページ12
──その翌日。
申請が通ったので正式に"時雨"という名を得た僕は、これでようやく三日月の"雛呼び"が終わる…と少し寂しくも安心していたというのに、そんなことはまったくなくて、一人嬉しいような複雑な気持ちを抱いていた。
けれどまぁ、もういいか…と諦めつつ、昨日しっかり食べてしっかり眠ったおかげで霊力も回復し、その上あの龍が二代目の霊力をすべて持って行ってくれたので、絶好調で朝を迎えた。
本日は朝食を食べてから国広たちと遠征部隊を選定し──ほとんどみんな回復したので、ひとまず遠征から徐々に再開することになった──、先日手入れができなかった信濃を含む軽傷者五振りを手入れした。
それから昼食を食べ、日課任務にも慣れようということで鍛刀し、現在近侍の三日月と刀装も作って、資材の整理を行う。
ちなみに、長義は今日も長谷部たちと蔵の調査だ。
この本丸、蔵がめちゃくちゃ多いのに、未だに二代目の悪行の証拠は出てきていないらしい。
…本当は三日月もそちらに回ってほしかったのだが、「お前を一人にさせられない」と断固反対され、結局彼には同行してもらっている。
散々みんなに心配かけたことは自覚しているので、甘んじて受け入れて二人で資材の整理を進めた。
するとそこに、僕が待ちわびていた二振りのうちの一振りがやってきた。
「あの…ここに、三代目?がいるって聞いたんだけど…」
「あっ、村雲江!どうしたの?」
第三資材庫の扉から遠慮がちに中を覗いた村雲江に、僕は手を止めて駆け寄る。
彼は負傷はしていないけれど、恐らく何らかの呪いをかけられているため、気になっていたのだ。
村雲江の来訪に気づいた三日月も、駆けていった僕を尻目に広げていた資材や書類を片し始める。
目が見えにくくなっているらしい村雲江を脅かさないよう、あまり近すぎない距離まで寄ると、彼はどこか言いにくそうに視線をそらした。
「その…この間、俺に呪いがかけられてるかも、って言ってたでしょ?
もしそれが本当なら…助けて、ほしくて…」
「うん、いいよ〜。それじゃ、手入れ部屋行こうか」
そっとお腹を押さえる村雲江にすぐに頷けば、彼は驚いたように目を見開き、合わない視線でこちらを捉えた。
「えっ…い、いいの?」
「ん?なんで?」
「いや…俺、あんなに失礼なことしたのに…」
「失礼なことって…"げっ"って言ったこと?」
「やっぱり根に持ってる…」
悪かったね、根に持つタイプで。
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時