第141話 ページ2
けれど…それでも、こんな僕でもできることがあるなら──
冷えたお茶を飲み干し、信濃を真っ直ぐに見据える。
「信濃藤四郎。教えて欲しい。
君は、二代目に何をされた?」
顔を上げた彼は、どこか吹っ切れたような凛とした目をしていた。
「…俺は…見てわかると思うけど、俺、同じ藤四郎の短刀の中で、唯一極めてないんだ。一番あとにここに来たから。
だけどようやく、俺も修行に行けるって頃に、大将が…初代がいなくなっちゃってさ。
それで、二代目が来てからも、修業に行かせてくれなくて…ほかの兄弟たちは新しい姿で、どんどん強くなっているのに、俺だけずっと、変わらないまま。
出陣しても、後れを取って負傷することが増えていって…」
自分を置いてどんどん強くなる兄弟たちの背を思い出したのか、信濃は眉間にしわをよせてきつく目を閉じた。
様々な感情を押さえつけるような彼の様子に、一期は苦い顔で黙っている。
…一期も、そんな信濃のことをずっと見ていて、でもどうすればいいのかわからなくて、人知れず戦っていたんだろうな。
そんな兄の姿に気づかずに、信濃は続ける。
「それで、ある時…二代目に言われたんだ。
"お前は弱いからもう刀を振るうな"…って」
「……」
「なっ…!」
信濃が発した二代目の言葉に僕は眉根を寄せ、一期は絶句した。
"刀を振るうな"なんて…刀剣の付喪神である彼らにそんなことを言うなんて、それが何を意味するのか、二代目はわかっていたのだろうか?
どんな目的があったのか知らないが、それは絶対に言っちゃだめなことだ。決して、許されることではない。
というか、初の姿でも練度がカンストしているなら、戦力としては十分なはずだ。さらなる高みを目指すなら、修業に行かせればいいだけの話。
信濃の想いを無下にして、刀の本分をまっとうさせないだなんて、そんなのただの怠慢だ。
一時はもしかして…と思っていたけれど、やっぱり僕の思い過ごしかもしれない…
信濃は腰に差していた己の本体を鞘ごと外すと、それをちゃぶ台の上にことりと置いた。
「それで…それを言った二代目に、何かをされて…
それ以来、刀が抜けなくなったんだ」
「刀が…抜けない…?」
この話が手入れを受けられないのとどう繋がるのかと思案していると、予想外の言葉に目を丸くする。
僕の呟きに一つ頷いた信濃は、ちゃぶ台に置いた本体を持ち上げると、縁側に出てこちらを振り向き、柄に手をかけた。
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時