愛欲は戦争、狂気は耽溺【kgm】【njsj】

朝 ページ18

．

「ーーーーー、ーーーーー」
「え」
言葉は、やっぱりわからなかった。けれど今までと何かが徹底的に違うことだけは、どうしてか理解できる。それはこの天使の瞳があまりに理知的で、そして優しいからだろうか。
それでも自分にとっては唐突のことで。呆気に取られて目を見開くと、そっと天使の胸に抱き寄せられる。いきなりのことに驚いて、突き放そうとするが体ごと抱き込むようにして強く抱えられてしまって息もできない。どういうつもりなのかと声をかけるが、天使は何も言わなかった。翅が大きくはためく音が聞こえる。
天使の体は人と同じように暖かった。心音のようなものは聞こえないけれど、確かに生きている。これ、落ち着く。錯乱しかけていた脳みそが少しずつ、少しずつ通常の回転に戻っていく。ほうとため息を吐いて、少しだけむせる。呼吸を止めるように思考を繰り返していたのがよくわかった。体を小さくしながらすり、と大きな胸板に擦り寄る。
「天使、」
「･･････」
「天使」
「･･････」
天使は、何も言わなかった。ただただ抱き締める力が強くなっただけ。翅がばさばさと音を立て、白い翅が舞うのが見えた。なぜか泣きたくなってしまう。こんなことで、人肌に触れるだけで泣くだなんて。自分がより情けなくなると同時に、どうしようもなくありがたかった
「ありがと、」
その言葉にも、天使は何も返さない。返さなかったけれどすり、と首筋に擦り付けてきた。天使の髪が首筋にかかってくすぐったい。その感触に思わず微笑むと、天使の空気が和らぐ。喉奥から響くような音がオルガンのように美しくて、目を閉じた。
そのまま、しばらく何をするでもなく二人で抱き合っていた。天使は何も言わなかったし、私も何も返さなかった。

ふ、と意識が浮上する。暖かい。ぼんやりと目を開くと、端整な男の顔が目の前にあった。
･･････目の前にあった？
「･･････ん、？」
かっと目を見開く。その美しく儚い眠り顔を凝視して漸く、「これは天使だ」と認識することができた。そして自分がいる場所が、いつもの自分の部屋の中のベッドであることに今更気がつく。
どうやら自分達は向かい合っているらしかった。しかもベッドに寝転がって。人が見れば勘違いされかねない状況に慌てて起きあがろうとするが、がっちりと腰に回された手がそれを許さない。ええ、え？と混乱に混乱が重なった私の頭は、思考を放棄する
「･･････寝るか、」
そうして、意識を手放した

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