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道中、次々と舞い込んでくる情報によれば侵入者は罠にはまり檻の中にいるらしい。侵入者の元へ近付くと予想通りの白髪が見えた。

「何をしに来た、元親」

「よォ、サヤカじゃねぇか。相変わらず物騒だな雑賀衆は。客人に武器を突きつけやがる」

「お前が変な入り方をするからだ、烏」

「こっちの方が早いからよ。……Aに会いに来た」

やはりか。少し離れたところで待っていたAを手招きして呼び寄せる。嬉しそうに、そして不思議そうに駆け寄ってきた彼女の背を押し檻の中で退屈そうに座っている鬼に見せる。

「元気そうだな、A!俺がいなくて寂しかったか?」

「ううん」

「あ……おう。そうか」

あからさまに落ち込んだ元親を見て、屈んで目線を合わせたAは「いつも元親がいると思って海を見ていたから寂しくなかった」と言って微笑んだ。

何を言おうとしたのか、パクパクと何度か口を動かした元親は慌てて口元に手をやって斜め下に顔を向けた。それで隠したつもりなのかは知らないが顔は……というより耳までもが真っ赤に染まっている。

「相変わらずだな、お前も」

どちらに言うでもなく言葉を発したが、ここまで分かりやすい元親を前にAは何故この男がここまで慌てふためいているのかが分からないようだった。

我らがそのような浮わついた話と無縁だったことと、彼女自身にそのような人が現れていないのが原因なのだろう。いや、そもそもの恋だとか愛だとかは頭では知っているのだろう。だが、実際にそうである人を目にしたことがないからきっと気が付けないのだ。私がそうだったように……。

「なァ、A」

「なぁに、紫の鬼さん?」

「海は好きか?」

「うん、好きだよ」

「船は?」

「好き」

「外の世界に行ってみたいと思わねェか?」

いよいよだ。と、そう思った。元親がAを海へ連れ出すのではないか?彼女に外の世界を見せたがるのではないか?ということは前に元親がここへ来たときから思っていたことだ。

そして我ら……否、私も元親と共に行かせるのがAにとっての幸せになるだろうと考えていたところだ。私に止める理由などはない。

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作者名:宇治銀時 | 作成日時:2024年1月6日 23時

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