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ファンを認知するだけの話
詳しいことは分からないけど、どうやら自分の彼氏は割と有名みたいで、街を歩いているとちらほら声をかけられる。私の記憶ではライターをやっていたはずの彼はなぜかYouTuberをやっていた。
｢あの、山本さんですか…？｣
｢ファンです、握手してください！｣
手を握ってもらうことで喜ぶ女子二人はこちらをチラと見て去っていった。大人気だねと声をかけるとおかげさまでと朗らかに笑ったので嫌味の通じないやつだなとため息をついた。
｢ね、買い物行かないの？｣
｢行く｣
商店街に陳列されている商品を品定めしながら歩く。祥彰を認知してから2年、付き合い始めてから1年がたって私達は三回生になっていた。
秋の乾いた空に身をすくめると、自然に手を繋がれる。
｢あ、僕芋食べたい｣
｢タピオカでも飲む？｣
｢できればデンプンじゃないのが良いかな｣
何事も無かったかのようなすました顔をつついてやれば、くすくすと笑いだす。
｢Aちゃんって、僕のこと結構好きだよね｣
｢祥彰が私を好きだからね｣
｢僕がAちゃんのこと好きじゃなかったら僕のこと好きになってくれなかったの？｣
｢ファンの子とかに手出したらダメだよ｣
｢…ねぇAちゃん。僕の自惚れじゃなかったらだけど、もしかして嫉妬してる？｣
｢ん、ファンの子が可哀想だなって思って｣
｢え？本当に手は出してないから信じてよ！｣
焦ったように目を合わせてくる彼。手を掴んでいる力も少しずつ強くなっていて、こんなに必死な人間が浮気をするわけが無いと思うのは私だけではないはず。繋がれている手を軽く握りなおす。こちらを見ている彼に唇を落とすと頬を赤く染めて笑った。
｢祥彰｣
｢…ん？｣
｢嫉妬したことにしてあげる｣
｢…それはズルすぎるよ、Aちゃん｣
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作者名：狭 | 作成日時：2021年3月9日 20時
